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2025/01/09

紅葉の宿【その4】

《以下の文章は、兵太夫の妄想文です。
内容はひたすら妄想ですが、兵太夫の過去捏造・実家設定捏造などがあります。オリキャラ満載です。
特に回想部分は、子供の虐待に近い表現があり、人によっては気分を害するかもしれません。
そのそれに対する登場人物たちのアドバイスがありますが、あくまで素人の小説なので、肯定しないでください。

中二病的発言は、華麗にスルーしてください。お願いです。
もちろんご本家様とは何ら関係ないばかりか縁もゆかりもございません。そして時代考証など完全に無視しております。訴えないで☆》

=============================================


母と会った後、兵太夫は別棟の縁側にいた。
目の前には以前、水汲み器の実験をした池がある。


―――母の様子を見ていられなかった。


母のそばにはいたい。
母に死が迫っているのは幼心にもわかった。
だが幼いからこそ、死という無限に飲み込まれそうな闇が怖かった。
母のそばにいたら、自分もその闇に飲み込まれてしまいそうな気がした。

…そして、その闇に何も対抗できない、自分のふがいなさも。

しばらく何をするわけでもなく、縁側でじっとしていた。


「なんじゃ?このようなところで何をしておる。」


不意に頭上から太い声が聞こえた。
一番上の兄、この家の嫡男だ。
15歳も歳の離れた長兄は、父に似て大柄。
正室の子であり、実力も申し分なく、次期当主として家臣たちから期待されていた。

今も数人の家臣たちを引き連れて、何事か話し合いに向かうようだ。

後ろには、二番目の兄がいる。
一番目の兄と2つ違いだが、性格は穏やかで優しかった。
この兄も正室の子であり、今は長兄の右腕としてなくてはならない存在となっていた。


―――自分とは、何もかも違う。


望まれて生まれ、立場もあり、周囲も期待している。
じりじりとした悔しさが、思わず目に出てしまう。


「何を不貞腐れておる。早う母の元へゆけ。」


そう言い捨てて兄は去っていった。

去っていく兄の背中を眺めていると、さっきまで悲しさで沈んでいた気分が、もやもやと湧き上がり、本当に「不貞腐れ」

てしまった。
次兄が「兵太夫、気を悪くするなよ。」と一言優しく声をかけてい無ければ、癇癪を起していたかもしれない。

仕方がないので、また何をするわけでもなく、もやもやとした気持ちが過ぎ去るまでじっと我慢することにした。



「おい、兵(ひょう)の助。」


今度はからかうような声が降ってきた。
こんな呼び方をするのは三番目の兄だ。

顔をあげると、やはり。

自分とは8つ違いで、今年17になるはずだ。
兄弟では一番歳が近いことや同じ側室の子という立場もあり、仲が良かった。

「なんだその顔は?」と言いながら、弟のふくれっ面を面白そうに覗き込んでいる。


ふぅっ


仕方ないな、といった面持ちで、兄は息をつく。


「そんなところでうじうじしていたところで、治るものも治らんだろ。お前さんも母君も。
 それっ!私と一緒に来い!!」


そういうと、兄は兵太夫の小さな体をひょいと小脇に抱え上げた。
放せ!放せ!と暴れる兵太夫をものともせず、そのまま厩舎へ向かっていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


さっそうと秋の野を栗毛色の馬が走っていく。
兄は前の鞍に兵太夫を乗せて、ススキの野をまっすぐ進む。
兵太夫は観念したように大人しく乗っている。


「よしっ!どうどうっ!」


河原の前で馬を止め、兄はひらりと降り立ち、兵太夫を抱き上げ、馬から降ろした。


『なぜ兄上はこんなところに連れてきたんだろう?』


兄は兵太夫の疑問に気づいているのか、いないのか。
疑問符のついた視線を背中に受けつつ、その辺にある柿の木から、色づいた実を適当に2、3個失敬している。


「ほれ、食え。うまいぞ。」


兵太夫にも1個投げてよこし、自分も豪快にかぶりついている。
突然連れ出されたこともあり、兵太夫はまだ混乱しながら、ぼぉーっと柿の実を眺めていた。


(これ…渋柿…じゃないのかな…?)


目の前では兄がむしゃむしゃうまそうに柿を食べている。
甘柿なのだろう。
ほっと一息ついて、自分も柿にかぶりついた。




「ぶっ!!!」


渋柿だった。しかもかなりの。

恨めしい目で兄を見上げると、兄は豪快に笑っている。


「はっはっはっはっ!!!!!
 用心深いお前にしては単純に引っかかってくれたのう。
 いや、一瞬気づかれたかと思ってな。
 お前が気づかなければ、私も渋柿を食い続けなければならんかったわ。」


兄もペッと柿の実を吐く。
しょうもない、いたずらをしてくれるなぁ…。
兵太夫は半ばあきれながら、そばにある石に腰掛けた。
兄も横に座り、突然こう切り出した。


「兄たちの幼名を知っとるか?」
「?」


「太郎・二郎・三郎じゃ。
 ちなみに父上の兄弟もそうだ。
 父上も叔父上も、太郎・二郎・三郎じゃ、紛らわしいことこの上ないわ。」


なんで今さら言うのだろう?
不思議そうに見ていると、兄は笑うのをやめ、川を見ながらつぶやいた。


「…父や兄を恨むなよ。」

「…。」

「太郎の兄上は…お前に、少しでも母と共に過ごせと言っておるのだ。」

「あっ…。」


一番上の兄は嫡男として、生まれた時から当主としての英才教育を受けている。
父はおろか母とも別々に暮らし、守役・重臣たちに囲まれて育った。
二番目の兄も、良き参謀になるため育てられた。

…兄たちの母は、何年も前に亡くなっている。
その時、上の兄2人は母とともに過ごせたのであろうか?


「昔、兄上はあれでいたずら好きだったのだ。
 子供の頃は、私が一番末っ子だったからな。よくしょうもないいたずらに引っかかっては泣かされたもんよ。
 落とし穴から、あんこのない饅頭まで…。そのたびに次郎の兄上に『弟をいじめないでください!』と小言を言われてい

たもんだよ。

 …今のお前に良く似ておる。兄上は。」

「…。」


先ほど城の廊下で見た、去っていく兄の背中が思い出される。
大きすぎて怖いものと思っていたが、今はさびしいような、優しいような。
なんとなく、そう思えていた。


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2014/09/14 ♪忍たま小説♪ Comment(0)

like a girl【その1】

≪以下の文章は世界が一巡、二巡した後ぐらいのお話です。完全なる我が家設定です。
 あと、イタリアの風習や文化などいろいろ無視しております。訴えないで☆≫

☆我が家設定
 ・原作終了後なのに、みんな生きてる。
 ・でもジョルノがボスになってる、この不思議。
 ・そんでもって、親バカ・パードレと一緒に暮らしてる。
 ・他のみんなは幹部になってるんだな、トリッシュは時たま遊びに来るんだな。
 ・ナランチャ「俺は学校に通ってるぞー!!ジョジョー!!」

=============================================

≪フーゴ&ナランチャで、完全なるギャグです。
 ジャンルは女体化・blになりますが、甘さや切ない恋心を求めてはいけません。
 恋愛要素は限りなく皆無に近い微量です。

 ・フーゴが何らかの事情で女の子になります。かろうじてナラフーです。
 ・護衛も暗殺もみんな元気ですが、みんなおバカです。
 ・ナランチャは絶賛・思春期男子です。
 ・そしてうちのフーゴは母ちゃんです。
 
 そんなナラフーなど認めん!!という方は、閲覧をお控えください。≫

=============================================

ある、日曜日―――

その日、南イタリアでは早朝に地震があった。
震度は5。
イタリアは火山国。地震は珍しいことでもない。
幸い大きな被害はなく、その日もいつも通り人々は活動し始めた。


…が、時に大地の神は、不可解なハプニングをもたらしてくれる…。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ばんっ!!


??「すみません!敵の攻撃を喰らいました!!」

…。
……。
………。

ここはおなじみパッショーネ・ブチャラティの事務所。
いわずもがな、イタリアン・ギャングのアジトだ。
今日も朝から、リーダーのブチャラティをはじめ、アバッキオ・ミスタの3人が詰めている。

そんな事務所の戸口に、いきなり現れたのは…銀髪の少女。
むさくるしい男所帯には似つかわない、目が覚めるような美少女だ。
普通なら、どう考えても「ここはお嬢さんの来るところではないですよ。」と追い返されるパターンなのだが…。
なんか見覚えある穴だらけのスーツを着ている…。
真っ先に我に返ったブチャラティが、声をかける。


ブチャ「ア…アナタ、ドナタ??」


??「フーゴです!!」


…。
……。
………。



「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー???????」」」

朝の爽やかな空に、やかましい叫びが響き渡った…。



【like a girl】



フーゴ「すみません。僕としたことが…。」

しゅんとしながら、椅子に掛けて事情を説明するフーゴ。
どうやら、早朝見回りを行っていたところ、急に眠気に襲われ
目が覚めたら、女子と化していたとのことだ。

たいていの人なら、「とりあえず病院行け(いろんな意味で)」となるところだが…
メンバーは、さすが歴戦のスタンド使い。
時間を止めたりすっ飛ばしたり、精神入れ替えまでなんでもありな、この人種。
この手の話ではお約束なので、いちいち驚かない。

そんな冷静沈着なメンバーの中で、うろたえてるのが約1名…。

ブチャ「話は後だ!
    とりあえず、俺の上着を着ろ。いろいろ危ない…!!」

フーゴ「??」

見ないように顔をそむけながら、自分のスーツを差し出す幹部。
ちなみにフーゴの格好は、おなじみの素肌に穴スーツである。
 
いろいろ見えそうで、ものすごく危ない。

フーゴ「…ありがたいですけど、それ脱いだらあなたも職場的にNGな格好になりますので、
    お気持ちだけいただいておきます…。
    それにブチャラティのスーツ、胸元あいてますから、
    隠すにはあまり意味ないですよ…。」

ブチャ「…そ…そうか…。すまん。」

しょんぼりとスーツを着直す幹部。
というか、揃いも揃って職場的にNGファッションだろ、イタリアン・ギャング。

そんなチームリーダーのブチャラティは
しばらく考え込んだ後、はっと何かを思いついた。

ブチャ「フーゴ!!とりあえず、ナランチャに着替えを持ってきてもらおう!!
    奴は今日も遅刻だから、まだ間に合うはず!!
    とにかく、この格好はダメだ!!
    若い娘が露出の多い服を着ちゃいかん!!」

遅刻すんなナランチャ。
そして、お前はフーゴの父親か、ブチャラティ。

フーゴ「え、でも…僕のうちにはこの手のスーツしかありませんよ??」

ブチャ「なにっ!?」

アバ「……。」


なんでそれしかないんだ、フーゴ。


そんなこんなしているうちに、連絡を受けたジョルノもやってきた。
…が、面白そうに『年頃の娘を心配する親父と冷静な娘』のやり取りを眺めている。
このままでは会話が堂々巡りするので、たまりかねたミスタが口をはさんだ。

ミスタ「とりあえず落ち着こう、ブチャラティ!
    見た目はこれだけど、中身はあのフーゴだから!

    まあ服のサイズで言ったら…確かジョルノはフーゴとサイズがほぼ同じだったな!?」

助けを求めて、必死に問いかけるミスタ。
が、さすがに若きボスは慌てない。
こんな時でも呑気にお茶を飲み、冷静に切り返す。

ジョル「えぇ。でも、今のフーゴは明らかにナランチャより小柄ですし…僕の服も合わないでしょう。
    それに、僕の家にも胸元のあいた学ランしかありませんよ?」


なんでそんな学ランしかないんだ、ジョルノ。


ブチャ「あぁっ!!どいつもこいつも!!」

どいつもこいつもハイセンス過ぎて、頭を抱える幹部。
苦悩する上司を慰めるミスタ。
意外と冷静なフーゴ。

そんな傍ら…

ジョル「これはいよいよ大変ですね~
    ボスとしては、しばらく直接介入せざるを得ませんね♪」

アバ「…お前、絶対楽しんでるだろ…。」

(オレとブチャラティは…そのうちハゲるかもしれない…。)

そう思わざるを得ないアバッキオ(21)であった。


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2014/09/08 *jogio小説* Comment(0)

紅葉の宿【その3】

《以下の文章は、兵太夫の妄想文です。
内容はひたすら妄想ですが、兵太夫の過去捏造・実家設定捏造などがあります。
特に回想部分は、子供の虐待に近い表現があり、人によっては気分を害するかもしれません。
そのそれに対する登場人物たちのアドバイスがありますが、あくまで素人の小説なので、肯定しないでください。

中二病的発言は、華麗にスルーしてください。お願いです。
もちろんご本家様とは何ら関係ないばかりか縁もゆかりもございません。そして時代考証など完全に無視しております。訴えないで☆》

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夏の暑さがひと段し、山々が色づいてくるころ。
兵太夫は1人夕暮れの部屋にこもっていた。

目の前にはぴたりと閉じられた襖がある。

その向こうには、母が病に伏せっていた。
風邪をこじらせ、労咳となったのだ。

おそらく父からうつされたのであろう。
父も若い頃、労咳を患ったが、ここ何年と小康状態で療養を続けていた。

労咳は一度かかると「完治」するのは難しい。
感染した時には、すぐ発病せず、そのまま体に住み続け、
体力の弱った時などに、好機とばかりに内部から牙を向けてくる。

父の病状は一進一退だったが、体力もあり頑健な肉体を持った父は、
今すぐ生活に支障をきたすというものでもないため、この城内の公務はすべて取り仕切っていた。

だが、その相手を務めた母は同じようにいかなかった。
みるまに高熱をだし、呼吸もままならない重篤な状態に陥った。





父が憎かった。





人質として連れてこられた母。
特別な感情もなく、政治の手段として側室にした父。
生まれてしまった、場違いな自分。

これほど不幸な三者三様があるだろうか?

父さえいなければ、母は病気にならずにすんだかもしれない。
父さえいなければ、母は戦利品として、敵家の奥に活けられる花になることもなかった
父さえいなければ、そんな母から自分が生まれてくることもなかった。

母の病室には入れない。
うつる病であるため、近づかないよう萩乃にも医者にもきつく言い含められていた。
襖一枚隔てたこの部屋が、今一番母に近い。
1人正座しながら、兵太夫は袴をわしっと掴みこんだ。


――――僕は何もできない…。


ただ母の容体を気にかけながら、隣室で大人しく待つ。
それが兵太夫にできるすべてのことだった。


「…。…。」

不意に自分の名を呼ばれた気がした。
すぐさま襖へ飛びつき、母の名を呼んだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


御前が希望したため、特別に病室に入れてもらえた。
枕元へはいけないが、寝台より一段下の畳まで寄ることができ、母の顔がよく見えた。

久々に見た母は痩せ衰ただえてはいたが、熱のせいか白い顔に赤みが差し、目は潤んでいた。

(きれいだな…。)

正直、やつれたのがかえって透き通るような美しさに見えた。

(病気じゃないみたいだ…。)

もちろんそんなことはない。
事実、母は苦しそうに呼吸している。
それに反して、心のどこかで、目の前の事実を否定していた。


「…兵太夫…。」


ヒューヒューとなる喉の奥から、か細い声で名前を呼ばれた。


「はい、母上。」


「これから母の言うことを、よく聞いてくださいね…。
 …あなたにはこの後も、たくさんの出来事が待っています。
 それに、ひとつひとつどうするか自分で考えて…
 あなたが一番良いと思う生き方を選んでください。
 
 けれど…決して自分を恥じるような生き方はしてはなりません。
 何が正しく、間違っているのかは、独りよがりな見かたでは見えません。
 これから出会う人たちを大切に…信頼できる、尊敬できる人を見つけなさい。」


「…はい…。」

母の言葉の意味はよくわからなかった。
ただ、いま聞き逃したら、もう二度と聞けない。
焦りとも不安ともいえない感情が、理解させようと兵太夫を動かしていた。

息子のそんな様子を見抜いた母は、安心させるように微笑んで見せた。


「よいのです。今はわからずとも。
 ただ母の言葉を心に留めておいてください。
 いつか、思い出す日も来ましょう。

 けれど…あなたがどんな道に進もうとも、母はいつもあなたの行いを見ています。
 良いことでも、悪いことでも、母は知らぬ振りなどできません。

 私は常に、あなたの母です…それをよく覚えておいて下さい。」

「…。」


どういうことだろう…。
疑問と不安がないまぜになり、返事ができなかった。

ただ、何も言えず、優しい笑顔を見つめるしかなかった。


>>NEXT

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2014/09/01 ♪忍たま小説♪ Comment(0)

紅葉の宿【その2】

《以下の文章は、兵太夫の妄想文です。
内容はひたすら妄想ですが、兵太夫の過去捏造・実家設定捏造などがあります。
特に回想部分は、子供の虐待に近い表現があり、人によっては気分を害するかもしれません。
そのそれに対する登場人物たちのアドバイスがありますが、あくまで素人の小説なので、肯定しないでください。

中二病的発言は、華麗にスルーしてください。お願いです。
もちろんご本家様とは何ら関係ないばかりか縁もゆかりもございません。そして時代考証など完全に無視しております。訴

えないで☆》

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それから4年がたった。

夏の陽が照りつけるなか、兵太夫は池で水汲み水車の実験をやっていた。

中が空洞になっている竹筒を軸にし、そこに側面の一部を開けた小さな竹筒を、放射線状に付けた水車の模型だ。
それを回すことで水を汲み上げる。
汲み上げた水は、小さな竹筒を通り、次々と中心の竹筒に流れ込み、軸の受け台についている水受けに入る。
水受けに入った水は、今度は竹の樋を通って、池の外の桶に入る。
こうやって、どんどん水が池の外に汲まれていく仕組みだ。



なぜそんなものを作り始めたかというと、その少し前、父から昔の合戦の話を聞いた。

その中に、城内の井戸の水が枯れた際、兵士から決死隊を募って城外にある川の水を汲みに行かせたという話があった。
当然、犠牲になったものも多かったそうだ。

父としては、息子たちに先祖たちの戦を聞かせ、自分たちの戦の教訓にしてほしかったのだろうが、
兵太夫が興味を持ったのは、勇ましい武勇伝ではなく、犠牲を出さずに危機を乗り越えられるものを作れないかということ

だった。


―――これがあれば、また戦があった時、誰も危険なこともしなくて済むようになるだろう。


――そして今度は父上にもほめてもらいたい。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


父にはほとんど会えない。
たまに母の部屋に渡ってくるが、様子を見に来るといったところだ。
自分に対しては一瞥するのがせいぜい。
「息災か。」とすら問わない。
世継ぎである兄と違って、興味が無いようだった。

もともと兵太夫の母は、戦に負けた笹山家から人質同然に輿入れした。
母と父は、親子ほど年が違う。
むしろ一番上の兄の方が、母と歳が近いぐらいだ。

だが、まだ幼く狭い兵太夫の世界には、そんな事情の入り込む隙などなかった。

ただ、父上に見てほしい。
兄上と同じではなくとも、せめて僕のからくりを見てほしい。

――本当は、母上のように褒めてくれるといいんだけどな…。

彼の世界は、まだ希望だけで満たされることができた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


わくわくしながら、兵太夫は水車を水に入れ、回してみた。
だが、実際やってみるとなんだかうまくいかない。
頭で考えていたことと違い、思い通りには動いてくれない。
自分の手先すら、まだ思うように動いてくれないのだ。ときどき本当にもどかしくなる。

一生懸命直しては動かし、動かしては直していると、大人たちの声が聞こえてきた。


――利発な若様じゃのう。
――いや全く。我々も想像のつかないようなものを次々作られておる。
――これは軍師としての才能があるかもしれんのう。


城の廊下から、家臣たちの関心する声が聞こえる。
兵太夫は少し得意になった。
ただ照れくさいので、そのまま背中を向けて聞こえないふりをし、黙々と作業を続けるつもりだった。

しかし、次に聞こえた言葉に、照れくささも幼い慢心もすべて打ち砕かれた。


――しかし惜しいのう…賢かろうと、からくりいじりでは…
――せめて武芸に秀でてくれれば、お家の中でも立場が上がろうに…
――いや、ご兄弟でも一番末の、しかもお部屋様のお子だ。どう出来が良くても人質に出されるのが常だろう。
  無事だとしても元服する頃には、兄君たちは三十路すぎ。出る幕はなかろう。













ぽっかりと穴が開いた。
自分の真ん中だ。
そこからさっきまでの楽しさや嬉しさが抜け去り、空っぽになった。


虚しい。


真夏なのに、その穴にひゅうひゅうと冷たい風が通り過ぎていく

分かっていた。
十分すぎるほど、本当は自分でも分かっていたのだ。
もしかしたら、認めてくれるかもしれないという期待もあった。
周囲にも、兄にも、父にも。
だが今、嫌というほど目の前に突き付けられたのだ。


――――そうなんだ…。どれだけ頑張っても…勉強しても…
    僕の力を役立てることはできないんだ…。


池にさぶんと沈み、水中でひとしきり泣き叫んだ。

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2014/08/23 ♪忍たま小説♪ Comment(0)

紅葉の宿【その1】

《以下の文章は、兵太夫の妄想文です。
内容はひたすら妄想ですが、兵太夫の過去捏造・実家設定捏造などがあります。
特に回想部分は、子供の虐待に近い表現があり、人によっては気分を害するかもしれません。
そのそれに対する登場人物たちのアドバイスがありますが、あくまで素人の小説なので、肯定しないでください。

中二病的発言は、華麗にスルーしてください。お願いです。
もちろんご本家様とは何ら関係ないばかりか縁もゆかりもございません。そして時代考証など完全に無視しております。訴えないで☆》

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(なんだよ。
いらないなら、産まなけりゃよかったじゃないか。)


1人の子供が障子越しに女たちのおしゃべりを見上げている。
沼底から這い上がってくるような視線で、音もなく聞いている。


「もうお兄様たちが3人もいらっしゃるからねぇ…。」
「いまさらどこかの領地を…というわけにもいかないでしょうし…。」
「まさかこの御歳でお子ができるなんて…ねぇ…。」
声の主たちは、この城の女中たちだ。


(仕方ないじゃないか。
 もうこの世にいるのに、どうしろってんだ。)


「でもねえ…こうあからさまに…。」
「仕方ないわよ。御方様には気の毒だけど…私たちにはどうしようもないもの」


もう聞きなれている。
耳に何度も入っている。
でも何回聞いても嫌な気分だ。





【紅葉の宿】





バンッ!

「まあ、どうしたのです?」

転げるように部屋に入り、後ろ手に障子を鳴らした兵太夫に、母は声をかけた。
見れば口をへの字に結びうつむきながら、何かを必死に堪えている。


(…また何かあったのだ。)


こうなると、この息子は何を話しかけても答えない。
尋ねたところで、怒った地蔵のような顔で何も言わないだろう。


(悔しいのであろうなぁ…。)


数え年でたった5つ。それにしても、この強情さは兄弟の中でも群を抜く。

だが、今はその気持ちもわからなくはない…。

すっと傍らに寄り添い、ぼさぼさになった髪をなでる。
それ以上、母はなにも聞かず、あやすように語りかけた。

母「…兵太夫、母が髪をすいてあげましょう。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



兵太夫の癖のない髪を、赤い櫛がするすると通っていく。
手ずから御前が髪を梳いていく。

「兵太夫様の御髪は母上様にそっくりでいらっしゃいますね。」


老女の萩野が目を細めてみている。

「私も昔はお方様の御髪を梳いて差し上げたのですよ。それがそのお子の御髪を梳いてあげられるようになるなんて…。」

昔を懐かしむように感慨深げに言う。
この老女は母の実家、笹山家から嫁ぎ先まで、ずっと仕えている。
いわば、母のような存在である。

綺麗に髪を結い終わった後、
御前は鏡越しに語りかけた。

「兵太夫。この櫛をごらんなさい。」

首を後ろにひねり、母の手の中を見る。
そこには先ほどまで自分の髪を梳いていた櫛。

なにかわからず、きょとんとした目を向けた。

「この櫛の模様、何かわかりますか?」
「?? 紅葉…ですか?」

その答えを聞くと、母はにっこりと笑顔で答えた。

「そう、兵太夫が生まれた時、紅葉がちょうど色づく季節だったのですよ。
 緑からだんだんと赤くなっていく紅葉と、日に日に大きくなっていくあなたの姿が相まって…。
 あなたが生まれて1年たった時に、記念にこの櫛を作らせたのです。」

手の中の櫛は小ぶりだが、赤い漆塗りでつやつやとしていた。
細工にしても、子供心にも細かくきれいだと思えた。


多くの側室の中の一人であるこの母が作らせるには、高価なものであったろう。


手の平に包むようにし、愛おしげに見つめている。

「何と言われようとも、母はこの櫛は手放しません。
 兵太夫もそのことを心に留めおくように…。」

「…はい!」

言葉にして考えられるまで、難しいことはまだわからなかったが、
きっと母はいつまでも自分のそばにいてくれる。いつも味方でいてくれる。
そう思えた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


バンッ!

「母上!見てください!」

兵太夫が、目を輝かせて母の部屋に飛び込んできた。

見れば手には小さな折鶴。
だが、普通のおり方ではない。

「これはね、尻尾を引っ張ると羽がパタパタするんです!」

おり方を工夫したらしく、尾を引っ張ると、
鶴の羽がパタパタ羽ばたくような仕掛けになっている。

「まあ、面白い…。兵太夫、良く考えましたこと。」
「へへっ」

大好きな母にほめられ、照れくさそうに鼻を掻きながらも、
幼心に得意になった。


それからだ。兵太夫の発明癖が出てきたのは。


最初のうちは、ただ母にほめられたいだけであった。
小さなものや人形が好きな母には、二つ折りの紙をひらくと飛び出す仕掛けの手紙を作ったり、
重いものが持てないと老女の萩野がぼやけば、自分のおもちゃであった引き車に手を加え、簡単な台車を作ったりと…。
どんどん作れるもの、考え出せるものが増えていった。


城内でも、兵太夫の発明癖は有名になっていった。

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2014/08/20 ♪忍たま小説♪ Comment(0)

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