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2025/01/08

紅葉の宿【その4】

《以下の文章は、兵太夫の妄想文です。
内容はひたすら妄想ですが、兵太夫の過去捏造・実家設定捏造などがあります。オリキャラ満載です。
特に回想部分は、子供の虐待に近い表現があり、人によっては気分を害するかもしれません。
そのそれに対する登場人物たちのアドバイスがありますが、あくまで素人の小説なので、肯定しないでください。

中二病的発言は、華麗にスルーしてください。お願いです。
もちろんご本家様とは何ら関係ないばかりか縁もゆかりもございません。そして時代考証など完全に無視しております。訴えないで☆》

=============================================


母と会った後、兵太夫は別棟の縁側にいた。
目の前には以前、水汲み器の実験をした池がある。


―――母の様子を見ていられなかった。


母のそばにはいたい。
母に死が迫っているのは幼心にもわかった。
だが幼いからこそ、死という無限に飲み込まれそうな闇が怖かった。
母のそばにいたら、自分もその闇に飲み込まれてしまいそうな気がした。

…そして、その闇に何も対抗できない、自分のふがいなさも。

しばらく何をするわけでもなく、縁側でじっとしていた。


「なんじゃ?このようなところで何をしておる。」


不意に頭上から太い声が聞こえた。
一番上の兄、この家の嫡男だ。
15歳も歳の離れた長兄は、父に似て大柄。
正室の子であり、実力も申し分なく、次期当主として家臣たちから期待されていた。

今も数人の家臣たちを引き連れて、何事か話し合いに向かうようだ。

後ろには、二番目の兄がいる。
一番目の兄と2つ違いだが、性格は穏やかで優しかった。
この兄も正室の子であり、今は長兄の右腕としてなくてはならない存在となっていた。


―――自分とは、何もかも違う。


望まれて生まれ、立場もあり、周囲も期待している。
じりじりとした悔しさが、思わず目に出てしまう。


「何を不貞腐れておる。早う母の元へゆけ。」


そう言い捨てて兄は去っていった。

去っていく兄の背中を眺めていると、さっきまで悲しさで沈んでいた気分が、もやもやと湧き上がり、本当に「不貞腐れ」

てしまった。
次兄が「兵太夫、気を悪くするなよ。」と一言優しく声をかけてい無ければ、癇癪を起していたかもしれない。

仕方がないので、また何をするわけでもなく、もやもやとした気持ちが過ぎ去るまでじっと我慢することにした。



「おい、兵(ひょう)の助。」


今度はからかうような声が降ってきた。
こんな呼び方をするのは三番目の兄だ。

顔をあげると、やはり。

自分とは8つ違いで、今年17になるはずだ。
兄弟では一番歳が近いことや同じ側室の子という立場もあり、仲が良かった。

「なんだその顔は?」と言いながら、弟のふくれっ面を面白そうに覗き込んでいる。


ふぅっ


仕方ないな、といった面持ちで、兄は息をつく。


「そんなところでうじうじしていたところで、治るものも治らんだろ。お前さんも母君も。
 それっ!私と一緒に来い!!」


そういうと、兄は兵太夫の小さな体をひょいと小脇に抱え上げた。
放せ!放せ!と暴れる兵太夫をものともせず、そのまま厩舎へ向かっていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


さっそうと秋の野を栗毛色の馬が走っていく。
兄は前の鞍に兵太夫を乗せて、ススキの野をまっすぐ進む。
兵太夫は観念したように大人しく乗っている。


「よしっ!どうどうっ!」


河原の前で馬を止め、兄はひらりと降り立ち、兵太夫を抱き上げ、馬から降ろした。


『なぜ兄上はこんなところに連れてきたんだろう?』


兄は兵太夫の疑問に気づいているのか、いないのか。
疑問符のついた視線を背中に受けつつ、その辺にある柿の木から、色づいた実を適当に2、3個失敬している。


「ほれ、食え。うまいぞ。」


兵太夫にも1個投げてよこし、自分も豪快にかぶりついている。
突然連れ出されたこともあり、兵太夫はまだ混乱しながら、ぼぉーっと柿の実を眺めていた。


(これ…渋柿…じゃないのかな…?)


目の前では兄がむしゃむしゃうまそうに柿を食べている。
甘柿なのだろう。
ほっと一息ついて、自分も柿にかぶりついた。




「ぶっ!!!」


渋柿だった。しかもかなりの。

恨めしい目で兄を見上げると、兄は豪快に笑っている。


「はっはっはっはっ!!!!!
 用心深いお前にしては単純に引っかかってくれたのう。
 いや、一瞬気づかれたかと思ってな。
 お前が気づかなければ、私も渋柿を食い続けなければならんかったわ。」


兄もペッと柿の実を吐く。
しょうもない、いたずらをしてくれるなぁ…。
兵太夫は半ばあきれながら、そばにある石に腰掛けた。
兄も横に座り、突然こう切り出した。


「兄たちの幼名を知っとるか?」
「?」


「太郎・二郎・三郎じゃ。
 ちなみに父上の兄弟もそうだ。
 父上も叔父上も、太郎・二郎・三郎じゃ、紛らわしいことこの上ないわ。」


なんで今さら言うのだろう?
不思議そうに見ていると、兄は笑うのをやめ、川を見ながらつぶやいた。


「…父や兄を恨むなよ。」

「…。」

「太郎の兄上は…お前に、少しでも母と共に過ごせと言っておるのだ。」

「あっ…。」


一番上の兄は嫡男として、生まれた時から当主としての英才教育を受けている。
父はおろか母とも別々に暮らし、守役・重臣たちに囲まれて育った。
二番目の兄も、良き参謀になるため育てられた。

…兄たちの母は、何年も前に亡くなっている。
その時、上の兄2人は母とともに過ごせたのであろうか?


「昔、兄上はあれでいたずら好きだったのだ。
 子供の頃は、私が一番末っ子だったからな。よくしょうもないいたずらに引っかかっては泣かされたもんよ。
 落とし穴から、あんこのない饅頭まで…。そのたびに次郎の兄上に『弟をいじめないでください!』と小言を言われてい

たもんだよ。

 …今のお前に良く似ておる。兄上は。」

「…。」


先ほど城の廊下で見た、去っていく兄の背中が思い出される。
大きすぎて怖いものと思っていたが、今はさびしいような、優しいような。
なんとなく、そう思えていた。


>>NEXT

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2014/09/14 ♪忍たま小説♪ Comment(0)

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