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内容はひたすら妄想ですが、兵太夫の過去捏造・実家設定捏造などがあります。
特に回想部分は、子供の虐待に近い表現があり、人によっては気分を害するかもしれません。
そのそれに対する登場人物たちのアドバイスがありますが、あくまで素人の小説なので、肯定しないでくだ
さい。
中二病的発言は、華麗にスルーしてください。お願いです。
もちろんご本家様とは何ら関係ないばかりか縁もゆかりもございません。そして時代考証など完全に無視し
ております。訴えないで☆》
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「お前のことは萩乃から逐一聞いておる。
なんでもからくりが得意だそうだな…。
お前は良い才能を授かっている
以前の戦で作った、面白い武器の話も聞いておる。
…しっかり学んでいるようだな…。」
「…は…い。」
「背が伸びたな…。」
「…。」
(病を得て気弱になったのだろうか…。)
すぐに本題に入るだろうと踏んでいただけに、
驚いて、不安にさえなってしまった。
(まさか僕の話をされるとは…。)
この父は、自分に関心はなかったのではないか?
それとも、4人いた息子を2人失い、仏心でもついたのだろうか…などと、
自分でもひやりとした考えしか浮かばなかった。
「久しぶりに会うというのに、儂はこのざまだ。
…お前の今後のことについて、話しておきたい。」
「はい。」
亡くなった2人の兄の代わりとして、家臣として仕えよというのだろうか?
それとも、分家させて独立させるのだろうか?
他家に養子として出すという選択肢もあるだろう…。
(――僕の運命は、どれだ?)
側室腹の末弟なら、そんな選択肢が妥当だ。
それは自分にもよく分かっている。
今さら言い渡されたところで、何も驚かない――。
「お前は武士としてこの家に戻るでない。
むしろ、市井(しせい)で暮らせ。」
「は?」
父の発言は予想を超えていた。
(――どういうことだ?)
この家から、切り離して捨てるというのだろうか?
「私は…武士としてこの家に戻ることはかないませんか!?」
「ならん…!」
急に声を荒げたためか、父が激しく咳き込みだした。
さすがに畳み掛けるには気が引け、咳が収まるのをみて、言葉を投げかけた。
「私では…兄上たちのようには務まらぬとおっしゃいますか?」
呼吸を整え、ふーと息をつき父は視線に力を入れた。
「そうではない。もう時勢が違うのだ…。」
(…?)
話が見えない。
時勢が違えば、どうして我が子を勘当同然に捨てることにつながるのだろうか?
「よいか…。
今まで…必要とされたのは、戦国の心じゃ。
戦って勝つ以外に生きる道はない。それができるものが生き残り、また生きるために戦う。
兄達はまさに戦国の武将じゃ。それでよいと思っている。今までの時代を生き抜くにはな…。
だが、お前は違う。
これからの時代を生き抜く者だ。」
ここで父はゆっくりと息を吸い、吐いた。
まるで水面に出て、束の間空気を吸い込む沼の亀のようだ。
この父も、時折冷たい水の中から、温かい空気を求めることがあるのだろうか?
「右府様は「天下布武」を掲げて武力により天下を平定し、また武力により一生を終えた。
太閤殿下も武力により天下を治め、はては海の向こうまで従えようとした。
…しかし、いつまでも武力で切り拓ける時代は続かぬ。
…「元和厭武」という言葉を知っておるか?
和を元とし、武を厭うと書く。…家康公が語っておった言葉だ。
…これからは武を厭う時代となろう。お前はその時代を生きるのだ。
父や兄と同じ生き方をするな。
命を張って戦いの中に生きるな。
それに、もう儂らの生きられる舞台はないのだ。
幸い、お前にはこれから活かせる力がある。そして、知識がある。
それを存分に活かせ。
儂はもうお前の先は見れぬ。
見れぬゆえ、お前には何も残さぬ。
自分で得たものと友を頼れ。」
「…。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
――見ている世界が違う。
正直、父は自分を厄介払いしたものだと思っていたし、母にも特別な感情はないものだと思っていた。
しかし、自分の将来を考えた父の選択肢は、大きく変わる世の中に、自分の居場所を作れるように下地を作
っておいた上での判断だった。
――自分には、そこまで遠い世界は見えていない。
(いつから、考えていたのだろう…。)
兄たちが亡くなった頃からか…。
母が亡くなった頃からか…。
それとも、自分が生まれたころからなのか…。
それに引き替え、自分は今の今まで
子どもっぽいふてくされた感情をいつまでも引きずって、
とても小さな、目の前の世界でもがいていたのかもしれない。
「萩乃…例の箱を」
「はい…。」
いつのまにか乳母の萩乃が側に控えていた。
言われるまま、隣室から小さな桐箱を持ってきた。
そして、心得たように、無言で兵太夫の前に差し出した。
応えるように、無言でそれを受け取り、箱を開けた。
そこには、絹布に包まれた赤い櫛が一つ。
紅葉の彫がある。
「…それは、7年前、形見としてもらったものだ…。」
みれば綺麗に磨かれている。古くなってはいるが、柘植独特のつやもある。
日々、大事に手入れがされていた証拠だ。
(――これは…。)
かすかに、髪を梳いてもらった、幼い記憶がある。
「…しかし…儂ももうこの冬を超えられるか分からぬ。
もうその櫛に手を入れてやる事はできん。
お前が成長した今、その櫛を持つにふさわしいのは、私ではなく、お前だろう…。」
何も言えない兵太夫をしり目に、
もう下がってよい、儂は少し休む。とぶっきらぼうに父は目をふせた。
そばにいる兄も、萩乃も眼を伏せている。
最後に、父に向き直り、まっすぐ見つめた。
この姿が、自分にとって最後の「父」になるだろう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
用意された客間に戻り、障子を閉めた。
日は傾き、橙の夕日が差し込んでいる。
積もった雪にも反射して、障子は紅葉の盛りのように紅く色づいている。
兵太夫は夕日に背を向けて部屋に一人座り、桐箱を置き、改めて箱を開けた。
――絹布に包まれた赤い櫛。紅葉の模様。
艶々とした光沢が、いつまでも想われ、大切にされていた事を物語っている。
そのまま櫛を取り出し、絹布ごと額に押し当てた。
「母上っ…。」
声は出ない。
その分、ただただ、涙がでた。
今は涙が出るだけ泣こう。
おそらく、もう泣くことはない。
>>NEXT
《以下の文章は、兵太夫の妄想文です。
内容はひたすら妄想ですが、兵太夫の過去捏造・実家設定捏造などがあります。
特に回想部分は、子供の虐待に近い表現があり、人によっては気分を害するかもしれません。
そのそれに対する登場人物たちのアドバイスがありますが、あくまで素人の小説なので、肯定しないでくだ
さい。
中二病的発言は、華麗にスルーしてください。お願いです。
もちろんご本家様とは何ら関係ないばかりか縁もゆかりもございません。そして時代考証など完全に無視し
ております。訴えないで☆》
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6年ぶりに城に着いた。
―――『父』とはどんなものだったろう…?
記憶にあるのは、幼い日に「他所で学べ」と申し渡した時の父の姿。
大柄で怖い顔をして…
岩のように冷たい。
(今、どんな姿だろうか?)
記憶をたどっていると、側付の小姓が迎えに来た。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「兵太夫か。」
6年ぶりに最初に会った肉親は一番上の兄だった。
この6年のうちに、城の中も人も変わっていた。
まず兵太夫が12歳の時、
すぐ上の兄が戦で討ち死にした。
唯一の弟である自分には、渋柿を食わせたり、小脇に抱えて馬に乗ったりなど、
いたずらばかりしてはかわいがってくれた、一番親しい兄。
その兄は、引き上げの際に長兄を逃がすため、殿(しんがり)を引き受けたのだという。
人の話では、出陣前に湯づけをかき込み、箸を投げ出し、
「これであの世まで腹はすかぬ!十分じゃ!」と言い、敵に切り込んでいった。
一本気で男気ある兄らしい最期だったと聞いた。
二番目の兄も、その次の年に討ち死にした。
いたずらに泣かされ、良く泣きついては、慰めてくれた優しい兄だった。
そんな優しい次兄らしく、女子供はその前に長兄の城へ避難させ、
本隊が来るまで持ちこたえるのが我らの役目、とそのまま籠城した。
思わぬ長期戦となり、さらに水を止められ、もはやこれまでと決断したのだろう。
骨も残さず、自身の城と共に消えた。
萩乃から都度都度聞かされてはいたが、
もう自分の兄弟は、この歳の離れた長兄しかいないのだと思うと、
心臓あたりにふっと木枯らしが吹きこむような感じがした。
長兄は相変わらず無口なようで、必要以上の説明はせず、
父の居間へ連れて行く。
その、父に似た肉付きのいい背中や、日に焼けた太い首を見ながら、
ぼんやりと自分とは似ていないなと感じていた。
自分は、背は高いが細身だった。
どちらかというと、労咳で亡くなった母に似たのだろう。
真夏にいくら日にあたっても、冬には白い肌に戻っていた。
廊下を進む途中、えいっ!やぁっ!と元気な子供の声が聞こえてきた。
声のする方を見ると、久々に日差しがのぞいた中庭で、剣術のけいこをしている2人の男児がいる。
「儂の息子たちだ。上の太郎が9つ、下の次郎は3つになる。」
「そう…ですか…。」
(もうこんなに大きくなったのか…。)
話に聞いてはいたが、甥と顔を合わせるのは初めてだ。
兄はもうすでに三十路を過ぎている。
この歳にしては子供が少ない方だろう。
まだ15歳の自分にとっては、甥というより弟と言った方が身近に感じる存在だ。
そう思って見ていると、自分たちの視線に気づいたのだろう、
兄の方がこちらをみて会釈をした。
弟の方は「ちちうえー!!」と無邪気に紅葉のような手を振っている。
(仲のよさそうな兄弟だ…。)
思わずにっこり笑って手を振りかえしていると、
兄が先に歩き出した。
慌てて追うと、
その背中がポツリと声をこぼした。
「兵太夫、儂は3つの子供に切腹の作法を教えることになったぞ…。」
「えっ…?」
「人質にな…次郎を行かせることになった。」
前を行く兄の背中が
このときだけ、少し丸まって見えた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(…これが父だろうか…。)
父の居間で一通り挨拶を口上終え、顔をあげた時、
そこには、
小さな老人がいた。
『父』だと理解するのに、数秒かかった。
同じ労咳とはいえ、記憶にある母の儚い美しさとは違い、立ち枯れた木のようだ。
だが土気色の顔をしていても、床にはつかず、脇息に上半身をもたれかけていた。
(そういえば…父上が横になっている姿は見たことがない…。)
「兵太夫か…。」
普通の親子ならば、ここで「大きくなったな」「見違えるようだ」など、子の成長を褒めるものだ。
(でも、この父からそんな言葉な無いだろう…。)
生まれて15年、親子の縁が薄かった分、
期待もしなくなっていた。
「兵太夫…。」
「はい。」
しかし、名前を呼ばれ、次に言われたのは意外な言葉だった。
>>NEXT
《以下の文章は、兵太夫の妄想文です。 内容はひたすら妄想ですが、兵太夫の過去捏造・実家設定捏造などがあります。オリキャラ満載です。
特に回想部分は、子供の虐待に近い表現があり、人によっては気分を害するかもしれません。 そのそれに対する登場人物たちのアドバイスがありますが、あくまで素人の小説なので、肯定しないでください。
中二病的発言は、華麗にスルーしてください。お願いです。
もちろんご本家様とは何ら関係ないばかりか縁もゆかりもございません。そして時代考証など完全に無視しております。訴えないで☆》
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身支度を終え、目的の人を探す。
目はまだ赤いが、冷やしたのでなんとか見れる程度になった。
探す人はいつもはどこにいるか分からないのに、今日は案外、簡単に見つかった。
昨日の縁側にその人はいた。
「学園長先生!」
「ん?兵太夫か、今日は早いのう。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「なるほど…。
家族ともつながっていたいし、みんなとも仲良くしたい…か。」
「はい…。」
「まあまあ、焦ってみても結論なんか出てきやせん。
そもそも、昨日今日で変わるもんではない。儂からあれこれ言われて『はい、そうですか。』なんて簡単に言える奴だったら、そもそも自分の考えなんぞあってないようなもんじゃ。
悩むだけ、兵太夫はしっかり自分の考えを持っていたということじゃよ。
良いことじゃ。自信を持って良い。」
「…はい。」
「考えが変わるというのは、いろんなものを見て聞いて、ゆっくり変わるもんじゃ。
頭でわかるというものではないからの。
大人になっていくうちに、だんだん自然に変わっていくものじゃよ。
むしろ10代20代の頃なんぞフラフラしてるのが当たり前じゃ。兵太夫の歳だと、まだまだ悩む時間は長いぞ?
儂も、ある程度まんべんなく世の中を見ることができるようになったのは、三十路半ばも過ぎてから…むしろそこまで歳をとらんと分からんこともあったと思っておる。
今だってそうじゃ。歳をとればとるほど世の中わかってきて、面白くなる。
そう思うと、これから歳をとるのも楽しみになってくるのう。」
70を過ぎたというのに、10歳の自分と少しも変わらないいたずらっぽそうな笑い顔。
まだまだこの人の人生は楽しそうな気がして、羨ましい。
かと思えば、急に考え込む顔つきになり、顎に手を当て、ふーむ…と少し唸ってからこう続けた。
「それに兵太夫の場合、ここに来た以上、必ずしも武士になるというわけではないのだから、いろんなものを見て、自分に向いている道を選ぶというのも必要ではないかな?
ここにいるときにだけでも、武士のことはいったん忘れてみたらどうじゃ?」
意外な提案に少し驚いた。
「武士」がなくなったら、自分はどうしたらいいんだろう?
全くの白紙になんでも描いていいよと言われるぐらい、何をしたらいいのか分からなくなる。
「…僕、今まで将来は武士になるとしか思っていなかったのに、
急に自分に向いているもの選べって言われても分からないです。」
ぽつりと言った言葉に、豪快な笑いが帰ってきた。
「そりゃあそうじゃ!誰が自分でも最初から『これだ!』とわかるもんか!
人間なんざ、この世にたくさんおるからの。神様仏様でも、いちいち誰に何の才能を授けたかなんて覚えておられるかどうか…分からんじゃろう!
まずは、なんでもやってみい。
やってみなければ、自分が何を好きなのか、得意なのか、分かるもんか。
ここでは、誰もそんなものやるなとも言わんし、他の生徒もからかったりせん。
むしろここにいったんとどまって、ぼーっと自分のことを考える時間を過ごすことが今は必要なんじゃよ。
とはいえ、まあ…宿題をさぼるのはなしじゃがな。」
やれやれ…と学園長は縁側から庭へ下り、腰を伸ばした。
そして、ある木の枝を指さした。
「ほれ見てみなさい。あそこにミノムシがあるじゃろう?
ミノムシはああやってお宿を作ってな、中でさなぎになって冬を越して、それから脱皮して成虫になるんじゃよ。
可笑しいと思わんか?
ああやっている間は、動くこともできんし、脱皮した直後は体が出来上がっていないから逃げられもせん。
何もあんな面倒なことせんと、毎日少しずつ成長してれば何の苦労もいらんのにな?
だが、なぜか生き物はそうなっている。一時、お宿にこもって自分が変わっていくのを待つしかない時があるんじゃよ。
ミノムシは季節が来たらその時が嫌でも来るが、人間はそうはいかん。
いつその時なのか、いつまでこもっているのか、本当にこうしていれば大人になれるのか。
誰にも分からんのじゃよ。
それが出来るのは全部自分次第じゃ。」
「…もし…もし、お宿にこもっても、なんにも分からなかったときは、そのまま出られないんですか…?
ずっと青虫のままだったら…どうしたらいいんですか?」
急に、暗いミノの中で一生過ごす光景が名に浮かび、怖くなった。
自分がそうならない補償も、そうなってしまう可能性も、今は何も見えないのだ。
そんな不安を払拭するかのように、
やはり人生すべてが楽しみであるかのような笑い声で、
元・天才忍者は応えてくれた。
「青虫がさなぎになるように、自然とじっくり考える時が、いつかくるもんじゃ。
その時に、自分は何をなすべきか、やっと考えられるんじゃよ。
大事なのは、自分で勝手に意固地になってこもらないことじゃ。
そうなると他人は誰も助けようがないからの。
今はたくさんのことを知って、まんべんなく判断できる目を養うことじゃ。
そして良い友をたくさん持っておれば、何も心配することはない。」
(――僕にはいるんだろうか…?)
そんな不安がよぎったとき、見透かしたように学園長が振り返った。
「現に、一人で泣いているのを心配してくれる友がおるじゃろう?
謝ってまた仲良くしたいと思う友もいるじゃろう?
…もうそろそろ帰ってくるのではないかな?」
はっとした。
もう日が完全に上っている。
素早く学園長に一礼し、門のところまで、たまらず駆けて行った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「うわーーーーーーーーーーー!!!!!」
「どわぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!」
「誰だーーー!こんなところにからくり仕掛けた奴はーーー!!!」
「…胃が…胃が痛い…。」
相変わらず賑やかな忍術学園。
それに今年はからくり被害者の悲鳴が加わった。
「まーた、あのからくりコンビですか…。よう次々と作るもんですな。」
「まあまあ、山田先生。そういわずに。
儂は毎日がますます面白くなったわい。」
目を細めて楽しんでいる学園長の横で、は組の実技担当の山田先生が、困ったように顎を撫でている。
「まあ、最近じゃちょっとやりすぎなんじゃあないかって時も有りますがね…。
わたしゃ、土井先生の胃が心配ですよ。」
「はっはっはつ!
『からくりをもっと見たい』と言ってしまった手前、辞めろとも言えんからな!
まあ、儂としては、兵太夫にはからくりを作り続けてほしいのう。
…あれには才能と長い年月が必要じゃ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
草木が一斉に芽吹く日々、
むせかえる緑と陽射し、
照り付ける長い夕日
静まりかえった雪の日
その光景が何度か廻った。
卒業を間近に控えた雪の日、手紙が届いた。
実家から初めて届く手紙。
それは、父の病状を知らせる手紙であった。
>>NEXT
「その集大成がわしじゃ。」
今までの価値感を問う覚悟で聞いた質問に、
他人事のようにさらっと学園長は答えた。
一口、お茶をすすって、続ける。
「変にプライドを持ったり、雇い主に義理立てしたものは…皆死んだ。
いくら優秀な者とて、忍者が『やあやあ我こそは!』などと名乗りを上げたところで、死ねば何も残らぬ。
…生きてこそ、こうして子供たちに学ぶ場所を作ってやれるのじゃ。」
「…。」
黙り込む兵太夫をしり目に、4枚目のせんべいを勢いよくバリンと音を立てて食べ、
またお茶をすすり、言葉を続ける。
「良いか、武士は名を惜しんで死ぬ。忍者は使える者はみな使ってでも生きる。
どちらも正しくもあり、正しくもない。
武士、町人、坊主、農民、いろんな人がいる限り、生き方も無数にある。
この世に生きている限り、どれを選んでもいいのじゃ。
一番してはならんのは、どれか一つにこだわって、他をすべて否定することじゃ。
案外、これだけと決めてそれだけに生きることは簡単でな。
なんせ他のことは考えなくても理解しなくてもいいし、否定していれば関わることもないからの。
だが、確実に他の者との衝突が起こる。
人間一番難しいのは、すべてのものをまんべんなく理解し、受け入れることじゃ。」
お茶がまだ少し残った湯呑を、手を温めるようにさすっている。
もうとっくに湯呑はさめているだろう。
視線を庭から手の中の湯呑に移して、言葉を紡いでいく。
「まんべんなく受け入れることができれば、今度は自分の言葉、行動をよーく振り返って、素直に反省することができる。
幼いころから無駄に重い鎧を付けて、ガチガチに体を固めていると背が伸びんように、
自分一人の価値観にこだわって、他人の意見を全否定することほど、人間の成長を妨げるものはない。
精神が幼児のまま、図体ばかりでかい人間は、みっともないものよ。」
「…。」
「まあ、儂ぐらいの歳になっても、まだまだ分からんことじゃがな。
大体それができれば、儂だって竜王丸とケンカせんで済むわい。」
そう言って、学園長はいつもの調子で豪快に笑って見せた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その夜、遅くまで兵太夫は布団の中でその意味を考えていた。
三治郎は隣でぐっすり眠っている。
(僕には自分の考えしかなかった…。)
いくら子供でも、それぞれの身分や役割が違うことぐらい知識として知っている。
しかし、まだまだ「自分の常識」だけが、世界の常識であった。
それぞれに、それぞれの「常識」があり「立場」があり、
またそれぞれに「考え」があることまでは、感じたことがなかった。
本来の悪ガキ気質を丸出しにして、いたずらしまくっても受け入れられると緩んでいたこともある。
周りのみんなへの甘えが過ぎた。
(僕は我がままだった…。)
でもそれでも、物心ついた時から教えられた「武士の心得」が正しいと思ってしまう。
それを手放したら、自分の家とかすかにつながっている見えない糸のようなものが、ぷっつりと切れてしまう気がした。
なんだかんだ言っても、母や兄たちとのつながりである家と完全につながりが切れてしまうのは怖かった。しかし、それにしがみついていたら今ここで一緒にいるみんなとぶつかってしまう。
もとの自分も捨てられず、新しい発見も認めたくない…。
(僕は僕が一番嫌いだ…。
自分が楽になれるところに逃げたいとしか思えない…。)
涙があふれてきたので、もうその夜は布団をかぶって声を殺して泣いた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次の朝、目が覚めると三治郎はすでに起きていたのか、もう部屋にいなかった。
代わりに水の入った桶と、手拭いが置いてあり、そのそばには書置きがあった。
「乱太郎と早朝ランニングに行ってきます。
僕が帰るまで、まぶた冷やしておいてね」
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《以下の文章は、兵太夫の妄想文です。 内容はひたすら妄想ですが、兵太夫の過去捏造・実家設定捏造などがあります。オリキャラ満載です。
特に回想部分は、子供の虐待に近い表現があり、人によっては気分を害するかもしれません。 そのそれに対する登場人物たちのアドバイスがありますが、あくまで素人の小説なので、肯定しないでください。
中二病的発言は、華麗にスルーしてください。お願いです。
もちろんご本家様とは何ら関係ないばかりか縁もゆかりもございません。そして時代考証など完全に無視しております。訴えないで☆》
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きっかけは、何の気なしに言ってしまった言葉だった。
「乱太郎のお父上、捕まったのに、生きて何度も帰るのか」
「だって、密書を奪うことが目的だもん。
できなくとも、何かしらの情報を伝えるのが父ちゃんの仕事だもの。」
正直、悪気はない。
むしろ知らなかったから、疑問のままに口にしてしまったと言えるだろう。
それが悪かった。
「うちの父ちゃんは忍者なの。武士と違って負けたから切腹したってなんの意味もないよ。
死ぬより何が何でも生きて帰ってくる方が、マシだよ。」
きょとんとした顔の兵太夫に、むっとした表情でそれだけ言い捨てて、去ってしまった。
ちゃんと理解はできなくとも、悪いことをしてしまったことだけはわかる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
日の短くなった縁側で、膝を抱えてごろんと寝っころがる。
しかし、いくら転がったところで、もやもやした煙のような気分は晴れない。
(乱太郎、何に怒ってたんだろう…。)
何も浮かんでこない。このままじゃまずいのはなんとなく分かっているが、どうしたらいいのか分からない。
反省する気持ちはあるが、まず、なにに対して怒らせてしまったのか…。
もやもやとした煙の中にいくら目を凝らしても、目に染みて痛いだけで、見えるものはない。
「なんじゃ、先客がおったのか。」
「? 学園長先生?」
慌てて目をこすって起き上がってみると、お茶とせんべいの盆を持った学園長がいた。
「まあいい、勝手に隣に座らせてもらうぞ。」
「はぁ…。」
「ほれ、たくさんあるから兵太夫も食べなさい。」
「…はい、いただきます…。」
拍子抜けして、勧められるままにせんべいをかじる。
ぼりぼりぼり…。
ほぼ1枚、大人しくせんべいをかじったところで、学園長が話しかけた。
「うむ、食べたな。」
「?? はい。」
「それじゃあ、兵太夫も共犯者じゃ!」
「はぁっ!?」
意外な言葉に残りのせんべいを落としかけた。
「へ!? な、何の共犯者なんです!?」
「実はな、これ、食堂のおばちゃんのおやつを失敬してきたんじゃ!!」
「~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!」
(なんてことしてんだこの人は――!!)
言わずと知れた学園最強の食堂のおばちゃん。
その3時のおやつを失敬してくるとは…。
しかもしっかり食べたのを見届けてから教える始末。
だまし討ちに遭った気分だ。
(うわぁ…どうしよう…。)
どうしようと思ったところで、腹に入ってしまったものはどうしようもない。
「はっはっはっ!
食ってしまったものはしょうがない!
これからどうするか考えるしかないのう。」
能天気な言葉に、兵太夫は思わず頭を抱えてしまった。
学園長は変わらず、ぼりぼりと2枚目のせんべいをかじっている。
3枚目のせんべいをかじりだしたところで、突然
「兵太夫、武家には武士の誇りがあるそうじゃな。」
こう話しかけてきた。
「はい。」
戦場で勇ましく戦い、手柄を挙げる。
万が一負ければ、名を重んじ、潔く死を選ぶ。
自分が物心ついたころから教えられた、いわば血肉になっている思想だ。
これをしっかり守って実行することで、自分にも自信が持てたし、誇りにも思っていた。
そして何より、家族や家とつながっていると思えるものだった。
「では、忍者の心得とはなんだと思う?」
「?」
(なんだろう――?
この場合、敵に見つからないとか、忍者はガッツじゃとか、そういうことじゃないんだろうけど…。)
「…武士と同じじゃないんですか?」
「お家のため、名を惜しんで、生き恥をさらすぐらいなら命を捨てる…ということかな?」
「はい。」
兵太夫の答えに、学園長はふむと頷く。
そしてお茶を一口すすり、一呼吸おいて答えた。
「忍者には、そんなものはない。」
「えっ!?」
「忍者は生きて帰る事。それが一番の心得じゃ。」
「…もし…任務に失敗したときも?」
「そうじゃ。何が何でも生きて帰ることを優先する。そのためには何でもする。
逃げるためなら敵に土下座し拝み倒し、必死に命乞いもする。」
「…。」
あっけにとられてしまった。
そんな考えは、兵太夫の中にひとかけらもなかった。
常に、自分の家に誇りを持ち、万が一破れて生き恥をさらすなら切腹せよ。
それが当たり前であった。
その常識が、根っこから崩された。
「そこまでして…生きることが大事なんですか…忍者には?」
少し怪訝な顔をした兵太夫の疑問に、
かつて天才忍者と言われたこの老人は、笑って答えた。
「その集大成がわしじゃ。」
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