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- Newer : 紅葉の宿【その14】
- Older : 紅葉の宿【その12】
内容はひたすら妄想ですが、兵太夫の過去捏造・実家設定捏造などがあります。
特に回想部分は、子供の虐待に近い表現があり、人によっては気分を害するかもしれません。
そのそれに対する登場人物たちのアドバイスがありますが、あくまで素人の小説なので、肯定しないでくだ
さい。
中二病的発言は、華麗にスルーしてください。お願いです。
もちろんご本家様とは何ら関係ないばかりか縁もゆかりもございません。そして時代考証など完全に無視し
ております。訴えないで☆》
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「お前のことは萩乃から逐一聞いておる。
なんでもからくりが得意だそうだな…。
お前は良い才能を授かっている
以前の戦で作った、面白い武器の話も聞いておる。
…しっかり学んでいるようだな…。」
「…は…い。」
「背が伸びたな…。」
「…。」
(病を得て気弱になったのだろうか…。)
すぐに本題に入るだろうと踏んでいただけに、
驚いて、不安にさえなってしまった。
(まさか僕の話をされるとは…。)
この父は、自分に関心はなかったのではないか?
それとも、4人いた息子を2人失い、仏心でもついたのだろうか…などと、
自分でもひやりとした考えしか浮かばなかった。
「久しぶりに会うというのに、儂はこのざまだ。
…お前の今後のことについて、話しておきたい。」
「はい。」
亡くなった2人の兄の代わりとして、家臣として仕えよというのだろうか?
それとも、分家させて独立させるのだろうか?
他家に養子として出すという選択肢もあるだろう…。
(――僕の運命は、どれだ?)
側室腹の末弟なら、そんな選択肢が妥当だ。
それは自分にもよく分かっている。
今さら言い渡されたところで、何も驚かない――。
「お前は武士としてこの家に戻るでない。
むしろ、市井(しせい)で暮らせ。」
「は?」
父の発言は予想を超えていた。
(――どういうことだ?)
この家から、切り離して捨てるというのだろうか?
「私は…武士としてこの家に戻ることはかないませんか!?」
「ならん…!」
急に声を荒げたためか、父が激しく咳き込みだした。
さすがに畳み掛けるには気が引け、咳が収まるのをみて、言葉を投げかけた。
「私では…兄上たちのようには務まらぬとおっしゃいますか?」
呼吸を整え、ふーと息をつき父は視線に力を入れた。
「そうではない。もう時勢が違うのだ…。」
(…?)
話が見えない。
時勢が違えば、どうして我が子を勘当同然に捨てることにつながるのだろうか?
「よいか…。
今まで…必要とされたのは、戦国の心じゃ。
戦って勝つ以外に生きる道はない。それができるものが生き残り、また生きるために戦う。
兄達はまさに戦国の武将じゃ。それでよいと思っている。今までの時代を生き抜くにはな…。
だが、お前は違う。
これからの時代を生き抜く者だ。」
ここで父はゆっくりと息を吸い、吐いた。
まるで水面に出て、束の間空気を吸い込む沼の亀のようだ。
この父も、時折冷たい水の中から、温かい空気を求めることがあるのだろうか?
「右府様は「天下布武」を掲げて武力により天下を平定し、また武力により一生を終えた。
太閤殿下も武力により天下を治め、はては海の向こうまで従えようとした。
…しかし、いつまでも武力で切り拓ける時代は続かぬ。
…「元和厭武」という言葉を知っておるか?
和を元とし、武を厭うと書く。…家康公が語っておった言葉だ。
…これからは武を厭う時代となろう。お前はその時代を生きるのだ。
父や兄と同じ生き方をするな。
命を張って戦いの中に生きるな。
それに、もう儂らの生きられる舞台はないのだ。
幸い、お前にはこれから活かせる力がある。そして、知識がある。
それを存分に活かせ。
儂はもうお前の先は見れぬ。
見れぬゆえ、お前には何も残さぬ。
自分で得たものと友を頼れ。」
「…。」
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――見ている世界が違う。
正直、父は自分を厄介払いしたものだと思っていたし、母にも特別な感情はないものだと思っていた。
しかし、自分の将来を考えた父の選択肢は、大きく変わる世の中に、自分の居場所を作れるように下地を作
っておいた上での判断だった。
――自分には、そこまで遠い世界は見えていない。
(いつから、考えていたのだろう…。)
兄たちが亡くなった頃からか…。
母が亡くなった頃からか…。
それとも、自分が生まれたころからなのか…。
それに引き替え、自分は今の今まで
子どもっぽいふてくされた感情をいつまでも引きずって、
とても小さな、目の前の世界でもがいていたのかもしれない。
「萩乃…例の箱を」
「はい…。」
いつのまにか乳母の萩乃が側に控えていた。
言われるまま、隣室から小さな桐箱を持ってきた。
そして、心得たように、無言で兵太夫の前に差し出した。
応えるように、無言でそれを受け取り、箱を開けた。
そこには、絹布に包まれた赤い櫛が一つ。
紅葉の彫がある。
「…それは、7年前、形見としてもらったものだ…。」
みれば綺麗に磨かれている。古くなってはいるが、柘植独特のつやもある。
日々、大事に手入れがされていた証拠だ。
(――これは…。)
かすかに、髪を梳いてもらった、幼い記憶がある。
「…しかし…儂ももうこの冬を超えられるか分からぬ。
もうその櫛に手を入れてやる事はできん。
お前が成長した今、その櫛を持つにふさわしいのは、私ではなく、お前だろう…。」
何も言えない兵太夫をしり目に、
もう下がってよい、儂は少し休む。とぶっきらぼうに父は目をふせた。
そばにいる兄も、萩乃も眼を伏せている。
最後に、父に向き直り、まっすぐ見つめた。
この姿が、自分にとって最後の「父」になるだろう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
用意された客間に戻り、障子を閉めた。
日は傾き、橙の夕日が差し込んでいる。
積もった雪にも反射して、障子は紅葉の盛りのように紅く色づいている。
兵太夫は夕日に背を向けて部屋に一人座り、桐箱を置き、改めて箱を開けた。
――絹布に包まれた赤い櫛。紅葉の模様。
艶々とした光沢が、いつまでも想われ、大切にされていた事を物語っている。
そのまま櫛を取り出し、絹布ごと額に押し当てた。
「母上っ…。」
声は出ない。
その分、ただただ、涙がでた。
今は涙が出るだけ泣こう。
おそらく、もう泣くことはない。
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