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2025/01/08

孤影の人【その8】

《以下の文章は、成長金吾と喜三太の妄想文です。 内容はひたすら妄想ですが、金吾と喜三太の実家設定捏造などがあります。オリキャラ満載です。
中二病的発言は、華麗にスルーしてください。お願いです。
もちろんご本家様とは何ら関係ないばかりか縁もゆかりもございません。そして時代考証など完全に無視しております。訴えないで☆》

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「おお、若。これへ。」

昼の暑さが落ち着き、気持ちの良い夜風が吹く。
夕餉を済まして師の居間に行くと、すでに布団に横になった慈海が、顔だけをこちらに向けて側へ呼んだ。

父と対面していたときは気を張っていたが、やはり疲れたのであろう。
目の下や頬にくっきりと影が付いている。


「このような姿で話をするのは、礼節の師としていかんと思うが…許せよ。
 何分、起き上がっているもの苦しゅうてな…。」

「はい、僕は一向に構いません。」


――お加減はあまりよろしくないようだ…。


金吾の心配をよそに、慈海は弟子の姿を満足そうに眼を細めて眺めている。


「この三月(みつき)、学問漬けの毎日じゃったな。
 詰め込みすぎたとも思うが、時間が惜しくての。

 すべて教えられているかと言われれば、まだまだ足りところもある。
 基礎は教え込んでいるゆえ、分からぬところがあれば慈恵に聞け。

 儂としてはもっと教えたいところじゃが…こればかりは神仏の心にかなわんことにはの…。」

「…。」

「なに、もう儂の教えは終わりというわけではない。
 まずは基礎の一段落。それがようやく終わったところよ。
 生きている限りは、お前たちに儂の持てるものをすべておいていく。
 一日一日が儂の教えじゃ。」

「はい。」


素直に返事をする金吾を見て、大叔父はまた満足そうにうなずいた。


「今日、若を呼んだのはほかでもない。
 仕上げとしてな、一つだけ、若に問題を出しておく。」

「はい。」

「若も知ってのとおり、この乱世では、妻子を質に出すことも少なくない…。
 その目的は和睦の条件であったり、友好の証としてだが…本質は離反するのを防ぐためじゃ。
 だが、時にはどうしても救い出せぬまま、質に出した先と戦が始まることもある。

 もし、質に出している妻子を見殺しにし無ければならん時が来たら…お主はどうする。」


問われて、若い次期当主はただただ目を丸くしている。
今までにない類の問いかけに、これまた素直に驚いている。


その丸い目を、じっと、くぼんだ目が見つめている。


土気色の顔、
暑さにもかかわらずに汗も出でていない

残された時間は本当に少ないのだ。


――この老いた師を安心させてやりたい。


であれば、安心できる答えをこの場で聞かせてやりたい。



「難しいであろうな、今すぐに答えんでも良い。」


「いえ!お師匠様、金吾はこの場で答えます。」


「ほう…もうできたとな。」


「…もし、そうなった場合は、迷わず妻子を捨てます。
 身内の情に迷って、一族郎党を迷わせることはしません!」


「馬鹿者っ!」

久々の雷が落ちた。

正直、そんな力がまだ残ってたのかと言うぐらいの大声だ。
しかし、かつての追撃はない。
興奮したため痰がのどに絡んだのか、老人は激しく咳き込みだした。

骨ばった背中をさすりながら、金吾は黙って次の言葉を待つ。
呼吸が整い、さらに一呼吸おいてから、穏やかな言葉がやってきた。


「…いや考えてみれば、まだ奥方も迎えていない若には、早い質問じゃった。
 人は先が短いと思うと、どうにも気ばかり焦る。
 気が焦ると、心に余裕がなくなる。
 心に余裕がなくなれば、このような短慮の失敗をする…。」

「…。」

「若の答えにも焦りが見える。
 この老体を気遣ってくれるのはありがたいが…そのように簡単に答えるものではない。

 妻子でなくとも、父や兄、喜三太でも良い。
 その者たちを見捨てる…そう考えるとどうじゃ?

 先と同じ答えができるか?」

「…。」

「…そうじゃ。…そう簡単に『捨てる』とは言えぬ。それが人の理(ことわり)よ。
 だからこそ、大名たちは他の家から質を取るのじゃ。
 何も悩まんのであれば、わざわざ差し出せと言わぬ。」


金吾の一文字に結んだ口元をみて、大叔父はなぜか安心したように目をつぶる。
答えより、人として当たり前の反応が、欲しかったのかもしれない。


「どの選択をすれば正解か、というものはない。
 結果として良いか悪いかが出るだけじゃ。

 …もし結果として、国や一族郎党を取ったとしても、
 そこに至るまで、熟慮することを重視せよ。

 何が最善か、他の立場や視点で見ればどうか。

 見方を変え、やり方を変え、
 考えに考え抜いて、打てる手段はすべて打ったうえで決めよ。
 その上で出した答えなら、少なくとも間違ってはおらぬ。

 一番の間違いは、目先のことだけで簡単に答えを出すことじゃ。」


シン…と静まった居間に、遠くから潮の音が流れてくる。
穏やかな流れの中から、しわがれた優しい声が続く。


「若、これは宿題としよう。
 答えが出るまでじっくり考えておれ。焦ることはない。
 一生かけて悩みなされ。

 儂はあの世で、よい答えが聞けるのを楽しみに待っておる。」

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2018/07/23 ♪忍たま小説♪ Comment(0)

孤影の人【その7】

《以下の文章は、成長金吾と喜三太の妄想文です。 内容はひたすら妄想ですが、金吾と喜三太の実家設定捏造などがあります。オリキャラ満載です。
中二病的発言は、華麗にスルーしてください。お願いです。
もちろんご本家様とは何ら関係ないばかりか縁もゆかりもございません。そして時代考証など完全に無視しております。訴えないで☆》

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「日に日に暑くなりますなぁ、叔父上。」


久々に澄み切った空を眺めて、武衛は年老いた叔父に団扇で風を送っている。
幾日も続いた梅雨の雨が収まったとはいえ、今度は湿気が充満し、息苦しい。
本格的に夏の暑さが始まっているようだ。


「いや、暑さ寒さもこの老体にはこたえる。
 とはいえ、殿直々に扇いでもらうなど、贅沢なことよ。」

そんな暑さの中でも、一家の長を迎えるには失礼があってはならんと、叔父の方は寝床から起き衣類を正している。
脇息にもたれかかりながらも、礼節を欠かぬよう気を張っているようだ。


「今は叔父孝行させてくだされ。
 こんな時でもないと、水入らずでゆっくり語ることもありませんからな。」


そんな甥の声に、目を閉じ頷きながら老僧は耳を傾けている。


「金吾と慈恵の様子は、どうですかな?」


「やはりご兄弟ですな。
 同じ屋根の元暮らせば、少しずつ心が通うようで…。

 出来れば、子どものころから儂の手元で一緒に育てたかったと思うところもあるが…これはこれで。
 それぞれに得手不得手があり、それぞれが利点でもある。
 補いあえればと思うが、それにはまずお互いの信頼が必要じゃからな。
 こればかりはもう少し時間が欲しい。
 
 2人ともよい子じゃが、どうも聞き分けが良すぎるというか…
 仲良うしてくれるのはいいが、ケンカもせぬようお互い意見をぶつけぬようで…。」

「何分、6年も離れて育ちましたからな…。」

「まあ、金吾は喜三太とは垣根のない仲のようじゃ。
 もともと大人しすぎるのでなければ、そのうち兄とも遠慮なく話ができるようになろう。」


今度は甥の方が、目を閉じてうんうんと反芻すようにその言葉を聞いている。
まぶたの裏には、もう少し成長した息子たちの姿。
息子たちの後ろには、からりと晴れ渡った青空が輝いている。
不穏な雲もない、澄み切った光景だ。

――可能性。それだけが強く焼きついてくる。


「父上、おいででしたか!?」


不意にかけられた子供の声に気づき、目を開ける。

縁側に金吾がいた。
びっしょりと水にぬれ、髪からは絶えずしずくが落ちている。
眩しいような笑顔と、以前より肉付きの良くなった肩や腕。
濡れた着物を小脇に抱え、ふんどし一丁の姿を見ると、村の悪ガキとそう大差ない。


「なんだ。暑さに耐えかねて、川干しにでも行ってきたのか?」

「畑仕事の泥を落としに川へ行っておりました。
 途中、喜三太に頭から水をかけられたので、僕もやり返しまして、水合戦に。
 もうどうせびしょ濡れだから、かまわないだろうと…。」

そういうそばから、水合戦の火ぶたを切った張本人が帰ってきた。
こちらも立派な濡れねずみになっている。
もーっ!と不満げにこぼしているところを見ると、負けたのだろう。
金吾よりも幾分白い腕をぶんぶん振り回して、高い声で抗議している。

巻き添えになったのか、兄の慈恵までびしょぬれだ。
こちらは抗議する元気もないようで、ぐったりした顔で喜三太の後についている。

3匹の悪ガキたちの姿に苦笑する父。
それとは反対に、大叔父は少し考え込んだ後、おもむろに口を開いた。


「ちょうど良い。若よ、夕餉のあとに儂のもとに来い。
 申し聞かせたいことがある。」

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2018/07/22 ♪忍たま小説♪ Comment(0)

孤影の人【その6】

《以下の文章は、成長金吾と喜三太の妄想文です。 内容はひたすら妄想ですが、金吾と喜三太の実家設定捏造などがあります。オリキャラ満載です。
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「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 
 …飽きちゃった。」

「これ喜三太、危ないですよ。」

縁側から地面へ、細身の少年が溶けたようにだらんと寝そべっている。
たすき掛けをした慈恵が、作業をしながら困ったようにそれを眺めている。

「だって慈恵様、毎日毎日慈海様の授業に掃除洗濯、野良仕事。
 炊事までやるなんて。
 6日に1日ぐらいはお休みが欲しいですよ~。」

「うちの寺は家事をしてくれるものがいないから。
 自分のことは自分でするんですよ。」

「慈海様は~?」

「お師匠様はお年ですから。
 でも炊事はみんなと一緒にやっているでしょう?」

「金吾は~?」

「金吾はお前と受ける授業のほかに、大名として必要なことを学んでますから。
 兵法から皆本家の系図に歴史書、
 和歌、連歌、茶の湯、香、能に幸若、小鼓、笛、尺八…」

「あぁぁ~もういいです!もういいです!
 聞くだけで頭が痛い~!」

「本来なら何年もかけて学ぶものですが…
 金吾は帰ってきてから詰め込み教育ですからね。
 もうしばらくは毎日こもりっきりですよ。

 …おや噂をすれば…」


奥の部屋からふらふらと歩いてくるのは、話題の中心の金吾その人だ。
小袖に袴の普段着でいる姿は、家臣たちの前で帰還ののあいさつをした日と比べると、
屈託のない15歳の少年そのものだ。


「づ…づがれだぁーー…。」

「もう見るからにお疲れだね。金吾…。」

だらんと寝そべる喜三太の隣に、倒れ込むように金吾も転がる。
2人とも溶けたように動かない。
そんな2人と対照的に、慈恵は梅のヘタを一つ一つ手早くとっていく。

「ほらほら、2人とも。
 今年は梅の実がこんなに取れましたからね。明日からは梅干しづくりです。」

「えぇ~~~~~梅干しぃ~~?」

「たまには肉が食べたいです、兄上~~!」

「鹿垣(ししがき)に猪でもはまってたら考えましょう。」


抗議する子供の声を、落ち着いた声がぴしゃりと抑える。


「春夏秋冬。竹を切ったり、松の皮を備蓄したり。
 寺とはいえお経を読んでばかりいるんではないんですよ。
 皆本家は武家ですからね。万が一の備えです。」


うにゃ~んと何とも言えない音をあげる弟たちをしり目に、てきぱきと梅の下ごしらえを進めていく。


「毎年毎年、焼酎で洗う役と塩揉みの役に、2人くらいお手伝いが欲しかったんですよ。」


にこっと満面の笑みを向けられる。
兄のこの笑顔には逆らえない。
しぶしぶお手伝いの覚悟を決める金吾と喜三太であった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「どうじゃな、今年の梅の出来は。」

「お師匠様」


不意に師のしわがれた声が上から降ってきたため、慈恵は手元から目をあげた。
金吾と喜三太は、夕食に使う野菜を取りに畑へ行っている。


「良いですよ。今年は喜三太がいてくれたので。実に傷が付かないよう木に登ってさっさと取ってきてくれましたよ。
 身が軽いんでしょうね。」

「まだまだ勉学も奉公も、遊びの延長のようじゃな。
 まあ元気でよろしい。」

「どうにもこうにも…小さい弟が2人も増えたようで」


そういう慈恵の顔は困ったような顔をしながらも、楽しんでいるようだ。
その間にも、畑から高い2つの声が聞こえてくる。


「まだ子供の気分が抜けないようじゃな。」

「それをいうなら、私も同じ年なのですよ。」


しわがれた声と、少し低く落ち着き始めた声が、
梅雨前の青い空に静かに溶けている。

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2017/05/08 ♪忍たま小説♪ Comment(0)

孤影の人【その5】

《以下の文章は、成長金吾と喜三太の妄想文です。 内容はひたすら妄想ですが、金吾と喜三太の実家設定捏造などがあります。オリキャラ満載です。
中二病的発言は、華麗にスルーしてください。お願いです。
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初夏の風が過ぎ、むせかえるような油蝉の声に包まれる頃。
武衛は国境の山城に出向いていた。

かろうじて馬が通れるとは言っても、自然が作った難攻不落の要塞。
頭上にはこれでもかというように照り付ける太陽。
山道を登るほどに、汗が流れる。


「おう、着いたか。」


汗を拭きながら武衛は門をくぐった。
ここは甲斐との山境にある城。
同じ北条系に仕える武将、高倉堂寸の居城だった。

国境いのため、近年小競り合いが絶えず、
先の三増峠の戦いの後、停戦の条件として、息子を甲斐側の三増氏へ人質に出している。
戦国の小大名には珍しくはない。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


高倉家の居間には、日差しの暑さをしのぐために簾がかけられ、涼しげな影が広がる。
武衛と堂寸は向かい合って麦湯を飲み、すぐ後ろに控えた小姓たちは、静かに風を送っている。


「お主の跡取りは頼もしいの。」
「まだまだじゃ。」


一通りの要件が終わり、他愛もない雑談が交わされている。
話題の中心は皆本家の嫡子・金吾のことだ。


「剣術が好きなのでな。良い師のもとで学べればと思うて預けていたが、
 まだ子供じゃ。我が家を任せるには心許ない。
 なにより戦では慢心が命取りになる。」

「そうよの…儂の倅も血気盛んなばかりで。
 若い者はこんなものかと思うておったが
 …結局、北条との小競り合いで失ってしもうた。」

「…。」


ふっと寂しさをにじませた声。
じりじりと規則正しい蝉の声が、静まった居間に響く。

堂寸の嫡男・吉政(よしまさ)は勇猛で名を知られ、武将としても跡継ぎとしても将来が期待されていたが、
昨年、北条家家臣との小競り合いがあり、それで受けた傷がもとで死んでしまった。
峠のなれない山道で、意表を突かれたのが大きな原因だった。


「長男はよく育ったと思い、安心しておったが…。
 もう儂の息子は三増へ質に出した福寿丸しかおらんようになってしもうた。
 北条は主家には当たるが…吉政を失った今、三増に強い態度では臨めん。」

息子を思うさびしげな表情の中に、何かそれとは違う、不穏な影がよぎった。
武衛はそれを見て見ぬふりし、話をつなげた。
不穏な影は影のまま、静かに収めたい。

「国境で争わぬよう友好を保つのはよいが、行き過ぎれば主家からどう思われるか…
 いらぬ懸念も出てこよう。それが今の世じゃ。

 三増の向こう、甲斐は勢いがある。
 しかし、お家に一波乱ありそうな様子じゃ。

 それに比べ北条は一枚岩。
 わざわざ嵐の前触れに飛び出していくものもなかろう。
 今どちらに組みするか、わからぬお主ではあるまい。」

群雄割拠のこの時代、これより後の江戸時代と比べれば、支える主君を変えることも珍しくもなかったが、
それでも一寸先は闇。
どこに仕えれば安泰というものでもない。

「北条の大殿は、お歳じゃ。
 それに引き替え、甲斐の若殿はこれから。
 勢いは向こうにある…。」

「滅多な事を言うものではない。
 そもそも甲斐の殿は、若殿と気が合わないと聞く。
 入れ込んでいる若殿が廃嫡されたらなんとする?」


堂寸は聞くともなしに手元の茶碗に目を落とし、ぼそっとつぶやいた。


「…あるいは…若虎が親を噛むかもな…。」

「なんと…!戦の世とはいえ、親子の情は切れぬものよ!。」

「そう、儂も親子の情は切れぬものよ…。」


そこまで聞いてはたと思い当たった。

堂寸は残った一人息子を質に入れているのだ。


――これは…滅多なことは言えぬ。


忠義一徹者が多い家には、冷静な主君が求められる。、
近隣との小競り合いで追い詰められ、すがる希望の跡継ぎは質にとられ
早まる者がないとは言い切れないのだ。
ここで上に立つものまで早まれば、一族どころか近隣にまで大きな波が立つ。


「事情は察するが、焦慮はいかん…。
 小さかろうと父祖の地がある、家臣がおる。
 それを守るのに一時耐えねばならぬこともある。
 ここで事を起こせばどうなるか…。

 辛抱じゃ 厳しい冬も耐えれば春になる
 ここは辛抱じゃ…。」


陽が傾き静まり返った居間に、ヒグラシが鳴きはじめた。
ささやかな鳴き声に、どこか後ろ髪をひかれる思いで、武衛は帰路についた。

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2017/01/16 ♪忍たま小説♪ Comment(0)

孤影の人【その4】

《以下の文章は、成長金吾と喜三太の妄想文です。 内容はひたすら妄想ですが、金吾と喜三太の実家設定捏造などがあります。オリキャラ満載です。
中二病的発言は、華麗にスルーしてください。お願いです。
もちろんご本家様とは何ら関係ないばかりか縁もゆかりもございません。そして時代考証など完全に無視しております。訴えないで☆》

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兄の勧めた松林を眺めながら、城へ帰ってきた。
青葉を照らす日光に目を細めながら、父の居間へと向かう。

「父上、金吾ただいま戻りました。」

「おぉ、叔父上の様子は…どうじゃった?」

固まった背中を伸ばすように、座りなおした武衛は、いつもより幾分穏やかな顔をしていた。

初夏の気候の良さに、うとうとしていたようだ。
父の居間にもやわらかい光が差し込んでいる。

「はい、私の帰還を喜んでいらっしゃいましたが、お師匠様の体はなかなか本調子とはいかないようです。
 兄上に手を貸してもらいながら、寝床から起き上がられておられました。」

「そうか…。年末から風邪気味だったとは聞いていたが…ここまでこじらせているとはな…。
 あの御歳だ。万が一のことも考えておられるかもしれんな。」

「そのことで、お師匠様からお話がありました。
 折を見て、兄上に寺の住職を譲ると…。」

「なにっ!」

武衛が驚きのあまり、目を剥く。
丸く大きな目がさらに見開く様は、雅楽の蘭陵王の面を思わせる。

しかし、驚きは束の間。
中空を見つめて「ふむっ」と嘆息すると、いつもの落ち着いた声になった。

「もし万が一と考えるならば、それが一番良いだろうな。
 慈恵は血縁者。金吾より長くそばにいた弟子だ。
 親バカかもしれんが、慈恵は頭の良い子じゃ。
 叔父上のように、良い軍師になるかもしれん。」

「父上。」

「うん?」

「お師匠様は、兄と私はともに力を合わせよと。決して相争うてはならぬと…。
 皆本家の強さは、血縁の強さだとおっしゃられました。」

「うむ…。」

その言葉に考え込むように武衛は腕組みし、目をつむる。

「その教えは必ず守っていかなければならん。
 我ら鎌倉から小田原を治める相模の小大名は、みな縁続きじゃ。
 特に北条家では、家の中心は全員正室の子と決まっておる。
 幼少時から兄弟の順序をしっかりつけることも、お家騒動回避の知恵じゃ。

 …鎌倉殿は身内同士で争い、三代で絶えてしまったが…
 我らはそれを教訓に代々力を固めている。」

「…はい、父上。」

「金吾、今は戦国じゃ。」

よく聞けと言わんばかりにカッと目を剥いて金吾の方を見た。
その気迫に負けて、じっと見入ってしまう。

「今の相模では北条が勢力を伸ばしている。
 甲斐では武田が、駿河では今川が。
 斯波氏・細川氏・畠山氏の守護職だの、関東管領だの、
 幕府の官職はあれど、みな形骸化しておる。

 今は力のあるものが伸びていく。

 北条の早雲殿を見よ。
 武田の虎を見よ。

 家柄よりも自分の力でのし上がった者が、国をまとめ治めている。
 管領職は応仁の乱へと引き込んだが、今は力でのし上がったものが戦を治めていっている…。」

そこで一瞬、力を抜き、
また考え込むかのように腕を組みながら、武衛は続きを語る。

「ただ、それは力で戦を終わらせること。
 家格も幕府も意味をなさなくなった今、戦国の世を治められるのは武力だけかもしれぬ…それは仕方のない事じゃ。
 まずは誰か1人が、すべての国を平らげなければ。」

そこまで話して武衛は薄く目をつぶった。
金吾は父の話を背筋を伸ばして聞いている。
きらきら光る眼ときゅっと結んだ口。
自然と父からの教えを請おうすとする姿勢になっている。

武衛は考えがまとまったのか、腕組みをしながら薄く目を開けた。

「儂らとて他人事ではいられまい。
 現に外からは、あの武田が進行してくるかもしれぬ。
 甲斐から京を目指そうと思えば、駿河は通らねばならぬ。
 武田に上洛の野望ありとなれば、儂らも覚悟せねばなるまい。

 しかし、儂らが山の武田を警戒すると同時に、武田も虎視眈々と様子をうかがわれておろう。

 …甲斐の背後には、越後の虎がいる。」


――越後


ふっと懐かしい感じがした。
あの雪深い国には、見知った顔がいる。

武士の子として生まれながら、生家との縁が薄かった同級生。
卒業間近に父親と死別し、庶民として生きることを選んだ。
まぶたの裏に、光を受けてきらきらと輝く、癖のないまっすくな髪が見える――。

人づてに聞いたところによると、今は生まれ故郷ではなく、
学園近くの山里で庶民として暮らしているはずだ。
だが離れていようと、彼を生み育てた土地には違いない。

懐かしい思い出に浸っているとも知らず、武衛はすっかり武士の顔となり我が息子に天下の情勢を語っている。

「越後の虎がいる限り、甲斐がめったなことで動くとは思えんが…
 問題はもし武田上洛の折、相模がどうなるかだ…。
 数年前には、三増峠での激戦もあったが、
 今は休戦・同盟を結んで一時の安息といった状態だ。
 
 これは金吾も知っていてほしいが、三増峠の戦のあと、我々は条件を付けて和睦しておる。
 国境の小大名は特に、なるべく穏やかに穏便にと、自分たちで人質交換をやって土地や民を安心させている。

 拮抗する情勢の中で、何ともつらい立場じゃな…。」

若い眉間にしわを寄せ、への字口をしながら、金吾は空を見上げる。



――兵太夫は元気だろうか-



難しい情勢は頭の中に知識として入っていき、
懐かしさは心からあふれてくる。

覚悟はしていたこととはいえ、卒業してしまえば、どんな立場になるかわからない。
特に自分は、武家の嫡男だ。
剣の師と違い、一剣豪ではない。

自分自身で取るべき道を判断し、家臣たちを采配しなければならないのだ。


空は変わらず、からりと青かった。
陽がさんさんと若葉に注ぎ、山鳩が矢倉の棟で静かに鳴いている。

ふと、その棟の向こうから、戻りを告げる喜三太の高い声がした。



――今はこの声と懐かしさに浸っておこう。

  その時が来れば、父と同じ計り知れぬ苦悩が自分にも課せられるのだから――


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