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《以下の文章は、成長金吾と喜三太の妄想文です。 内容はひたすら妄想ですが、金吾と喜三太の実家設定捏造などがあります。オリキャラ満載です。
中二病的発言は、華麗にスルーしてください。お願いです。
もちろんご本家様とは何ら関係ないばかりか縁もゆかりもございません。そして時代考証など完全に無視しております。訴えないで☆》
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初夏の風が過ぎ、むせかえるような油蝉の声に包まれる頃。
武衛は国境の山城に出向いていた。
かろうじて馬が通れるとは言っても、自然が作った難攻不落の要塞。
頭上にはこれでもかというように照り付ける太陽。
山道を登るほどに、汗が流れる。
「おう、着いたか。」
汗を拭きながら武衛は門をくぐった。
ここは甲斐との山境にある城。
同じ北条系に仕える武将、高倉堂寸の居城だった。
国境いのため、近年小競り合いが絶えず、
先の三増峠の戦いの後、停戦の条件として、息子を甲斐側の三増氏へ人質に出している。
戦国の小大名には珍しくはない。
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高倉家の居間には、日差しの暑さをしのぐために簾がかけられ、涼しげな影が広がる。
武衛と堂寸は向かい合って麦湯を飲み、すぐ後ろに控えた小姓たちは、静かに風を送っている。
「お主の跡取りは頼もしいの。」
「まだまだじゃ。」
一通りの要件が終わり、他愛もない雑談が交わされている。
話題の中心は皆本家の嫡子・金吾のことだ。
「剣術が好きなのでな。良い師のもとで学べればと思うて預けていたが、
まだ子供じゃ。我が家を任せるには心許ない。
なにより戦では慢心が命取りになる。」
「そうよの…儂の倅も血気盛んなばかりで。
若い者はこんなものかと思うておったが
…結局、北条との小競り合いで失ってしもうた。」
「…。」
ふっと寂しさをにじませた声。
じりじりと規則正しい蝉の声が、静まった居間に響く。
堂寸の嫡男・吉政(よしまさ)は勇猛で名を知られ、武将としても跡継ぎとしても将来が期待されていたが、
昨年、北条家家臣との小競り合いがあり、それで受けた傷がもとで死んでしまった。
峠のなれない山道で、意表を突かれたのが大きな原因だった。
「長男はよく育ったと思い、安心しておったが…。
もう儂の息子は三増へ質に出した福寿丸しかおらんようになってしもうた。
北条は主家には当たるが…吉政を失った今、三増に強い態度では臨めん。」
息子を思うさびしげな表情の中に、何かそれとは違う、不穏な影がよぎった。
武衛はそれを見て見ぬふりし、話をつなげた。
不穏な影は影のまま、静かに収めたい。
「国境で争わぬよう友好を保つのはよいが、行き過ぎれば主家からどう思われるか…
いらぬ懸念も出てこよう。それが今の世じゃ。
三増の向こう、甲斐は勢いがある。
しかし、お家に一波乱ありそうな様子じゃ。
それに比べ北条は一枚岩。
わざわざ嵐の前触れに飛び出していくものもなかろう。
今どちらに組みするか、わからぬお主ではあるまい。」
群雄割拠のこの時代、これより後の江戸時代と比べれば、支える主君を変えることも珍しくもなかったが、
それでも一寸先は闇。
どこに仕えれば安泰というものでもない。
「北条の大殿は、お歳じゃ。
それに引き替え、甲斐の若殿はこれから。
勢いは向こうにある…。」
「滅多な事を言うものではない。
そもそも甲斐の殿は、若殿と気が合わないと聞く。
入れ込んでいる若殿が廃嫡されたらなんとする?」
堂寸は聞くともなしに手元の茶碗に目を落とし、ぼそっとつぶやいた。
「…あるいは…若虎が親を噛むかもな…。」
「なんと…!戦の世とはいえ、親子の情は切れぬものよ!。」
「そう、儂も親子の情は切れぬものよ…。」
そこまで聞いてはたと思い当たった。
堂寸は残った一人息子を質に入れているのだ。
――これは…滅多なことは言えぬ。
忠義一徹者が多い家には、冷静な主君が求められる。、
近隣との小競り合いで追い詰められ、すがる希望の跡継ぎは質にとられ
早まる者がないとは言い切れないのだ。
ここで上に立つものまで早まれば、一族どころか近隣にまで大きな波が立つ。
「事情は察するが、焦慮はいかん…。
小さかろうと父祖の地がある、家臣がおる。
それを守るのに一時耐えねばならぬこともある。
ここで事を起こせばどうなるか…。
辛抱じゃ 厳しい冬も耐えれば春になる
ここは辛抱じゃ…。」
陽が傾き静まり返った居間に、ヒグラシが鳴きはじめた。
ささやかな鳴き声に、どこか後ろ髪をひかれる思いで、武衛は帰路についた。
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