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《以下の文章は、成長金吾と喜三太の妄想文です。 内容はひたすら妄想ですが、金吾と喜三太の実家設定捏造などがあります。オリキャラ満載です。
中二病的発言は、華麗にスルーしてください。お願いです。
もちろんご本家様とは何ら関係ないばかりか縁もゆかりもございません。そして時代考証など完全に無視しております。訴えないで☆》
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兄の勧めた松林を眺めながら、城へ帰ってきた。
青葉を照らす日光に目を細めながら、父の居間へと向かう。
「父上、金吾ただいま戻りました。」
「おぉ、叔父上の様子は…どうじゃった?」
固まった背中を伸ばすように、座りなおした武衛は、いつもより幾分穏やかな顔をしていた。
初夏の気候の良さに、うとうとしていたようだ。
父の居間にもやわらかい光が差し込んでいる。
「はい、私の帰還を喜んでいらっしゃいましたが、お師匠様の体はなかなか本調子とはいかないようです。
兄上に手を貸してもらいながら、寝床から起き上がられておられました。」
「そうか…。年末から風邪気味だったとは聞いていたが…ここまでこじらせているとはな…。
あの御歳だ。万が一のことも考えておられるかもしれんな。」
「そのことで、お師匠様からお話がありました。
折を見て、兄上に寺の住職を譲ると…。」
「なにっ!」
武衛が驚きのあまり、目を剥く。
丸く大きな目がさらに見開く様は、雅楽の蘭陵王の面を思わせる。
しかし、驚きは束の間。
中空を見つめて「ふむっ」と嘆息すると、いつもの落ち着いた声になった。
「もし万が一と考えるならば、それが一番良いだろうな。
慈恵は血縁者。金吾より長くそばにいた弟子だ。
親バカかもしれんが、慈恵は頭の良い子じゃ。
叔父上のように、良い軍師になるかもしれん。」
「父上。」
「うん?」
「お師匠様は、兄と私はともに力を合わせよと。決して相争うてはならぬと…。
皆本家の強さは、血縁の強さだとおっしゃられました。」
「うむ…。」
その言葉に考え込むように武衛は腕組みし、目をつむる。
「その教えは必ず守っていかなければならん。
我ら鎌倉から小田原を治める相模の小大名は、みな縁続きじゃ。
特に北条家では、家の中心は全員正室の子と決まっておる。
幼少時から兄弟の順序をしっかりつけることも、お家騒動回避の知恵じゃ。
…鎌倉殿は身内同士で争い、三代で絶えてしまったが…
我らはそれを教訓に代々力を固めている。」
「…はい、父上。」
「金吾、今は戦国じゃ。」
よく聞けと言わんばかりにカッと目を剥いて金吾の方を見た。
その気迫に負けて、じっと見入ってしまう。
「今の相模では北条が勢力を伸ばしている。
甲斐では武田が、駿河では今川が。
斯波氏・細川氏・畠山氏の守護職だの、関東管領だの、
幕府の官職はあれど、みな形骸化しておる。
今は力のあるものが伸びていく。
北条の早雲殿を見よ。
武田の虎を見よ。
家柄よりも自分の力でのし上がった者が、国をまとめ治めている。
管領職は応仁の乱へと引き込んだが、今は力でのし上がったものが戦を治めていっている…。」
そこで一瞬、力を抜き、
また考え込むかのように腕を組みながら、武衛は続きを語る。
「ただ、それは力で戦を終わらせること。
家格も幕府も意味をなさなくなった今、戦国の世を治められるのは武力だけかもしれぬ…それは仕方のない事じゃ。
まずは誰か1人が、すべての国を平らげなければ。」
そこまで話して武衛は薄く目をつぶった。
金吾は父の話を背筋を伸ばして聞いている。
きらきら光る眼ときゅっと結んだ口。
自然と父からの教えを請おうすとする姿勢になっている。
武衛は考えがまとまったのか、腕組みをしながら薄く目を開けた。
「儂らとて他人事ではいられまい。
現に外からは、あの武田が進行してくるかもしれぬ。
甲斐から京を目指そうと思えば、駿河は通らねばならぬ。
武田に上洛の野望ありとなれば、儂らも覚悟せねばなるまい。
しかし、儂らが山の武田を警戒すると同時に、武田も虎視眈々と様子をうかがわれておろう。
…甲斐の背後には、越後の虎がいる。」
――越後
ふっと懐かしい感じがした。
あの雪深い国には、見知った顔がいる。
武士の子として生まれながら、生家との縁が薄かった同級生。
卒業間近に父親と死別し、庶民として生きることを選んだ。
まぶたの裏に、光を受けてきらきらと輝く、癖のないまっすくな髪が見える――。
人づてに聞いたところによると、今は生まれ故郷ではなく、
学園近くの山里で庶民として暮らしているはずだ。
だが離れていようと、彼を生み育てた土地には違いない。
懐かしい思い出に浸っているとも知らず、武衛はすっかり武士の顔となり我が息子に天下の情勢を語っている。
「越後の虎がいる限り、甲斐がめったなことで動くとは思えんが…
問題はもし武田上洛の折、相模がどうなるかだ…。
数年前には、三増峠での激戦もあったが、
今は休戦・同盟を結んで一時の安息といった状態だ。
これは金吾も知っていてほしいが、三増峠の戦のあと、我々は条件を付けて和睦しておる。
国境の小大名は特に、なるべく穏やかに穏便にと、自分たちで人質交換をやって土地や民を安心させている。
拮抗する情勢の中で、何ともつらい立場じゃな…。」
若い眉間にしわを寄せ、への字口をしながら、金吾は空を見上げる。
――兵太夫は元気だろうか-
難しい情勢は頭の中に知識として入っていき、
懐かしさは心からあふれてくる。
覚悟はしていたこととはいえ、卒業してしまえば、どんな立場になるかわからない。
特に自分は、武家の嫡男だ。
剣の師と違い、一剣豪ではない。
自分自身で取るべき道を判断し、家臣たちを采配しなければならないのだ。
空は変わらず、からりと青かった。
陽がさんさんと若葉に注ぎ、山鳩が矢倉の棟で静かに鳴いている。
ふと、その棟の向こうから、戻りを告げる喜三太の高い声がした。
――今はこの声と懐かしさに浸っておこう。
その時が来れば、父と同じ計り知れぬ苦悩が自分にも課せられるのだから――
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