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- Newer : like a girl【その12】
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《以下の文章は、成長金吾と喜三太の妄想文です。 内容はひたすら妄想ですが、金吾と喜三太の実家設定捏造などがあります。オリキャラ満載です。
中二病的発言は、華麗にスルーしてください。お願いです。
もちろんご本家様とは何ら関係ないばかりか縁もゆかりもございません。そして時代考証など完全に無視しております。訴えないで☆》
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「おお、若。これへ。」
昼の暑さが落ち着き、気持ちの良い夜風が吹く。
夕餉を済まして師の居間に行くと、すでに布団に横になった慈海が、顔だけをこちらに向けて側へ呼んだ。
父と対面していたときは気を張っていたが、やはり疲れたのであろう。
目の下や頬にくっきりと影が付いている。
「このような姿で話をするのは、礼節の師としていかんと思うが…許せよ。
何分、起き上がっているもの苦しゅうてな…。」
「はい、僕は一向に構いません。」
――お加減はあまりよろしくないようだ…。
金吾の心配をよそに、慈海は弟子の姿を満足そうに眼を細めて眺めている。
「この三月(みつき)、学問漬けの毎日じゃったな。
詰め込みすぎたとも思うが、時間が惜しくての。
すべて教えられているかと言われれば、まだまだ足りところもある。
基礎は教え込んでいるゆえ、分からぬところがあれば慈恵に聞け。
儂としてはもっと教えたいところじゃが…こればかりは神仏の心にかなわんことにはの…。」
「…。」
「なに、もう儂の教えは終わりというわけではない。
まずは基礎の一段落。それがようやく終わったところよ。
生きている限りは、お前たちに儂の持てるものをすべておいていく。
一日一日が儂の教えじゃ。」
「はい。」
素直に返事をする金吾を見て、大叔父はまた満足そうにうなずいた。
「今日、若を呼んだのはほかでもない。
仕上げとしてな、一つだけ、若に問題を出しておく。」
「はい。」
「若も知ってのとおり、この乱世では、妻子を質に出すことも少なくない…。
その目的は和睦の条件であったり、友好の証としてだが…本質は離反するのを防ぐためじゃ。
だが、時にはどうしても救い出せぬまま、質に出した先と戦が始まることもある。
もし、質に出している妻子を見殺しにし無ければならん時が来たら…お主はどうする。」
問われて、若い次期当主はただただ目を丸くしている。
今までにない類の問いかけに、これまた素直に驚いている。
その丸い目を、じっと、くぼんだ目が見つめている。
土気色の顔、
暑さにもかかわらずに汗も出でていない
残された時間は本当に少ないのだ。
――この老いた師を安心させてやりたい。
であれば、安心できる答えをこの場で聞かせてやりたい。
「難しいであろうな、今すぐに答えんでも良い。」
「いえ!お師匠様、金吾はこの場で答えます。」
「ほう…もうできたとな。」
「…もし、そうなった場合は、迷わず妻子を捨てます。
身内の情に迷って、一族郎党を迷わせることはしません!」
「馬鹿者っ!」
久々の雷が落ちた。
正直、そんな力がまだ残ってたのかと言うぐらいの大声だ。
しかし、かつての追撃はない。
興奮したため痰がのどに絡んだのか、老人は激しく咳き込みだした。
骨ばった背中をさすりながら、金吾は黙って次の言葉を待つ。
呼吸が整い、さらに一呼吸おいてから、穏やかな言葉がやってきた。
「…いや考えてみれば、まだ奥方も迎えていない若には、早い質問じゃった。
人は先が短いと思うと、どうにも気ばかり焦る。
気が焦ると、心に余裕がなくなる。
心に余裕がなくなれば、このような短慮の失敗をする…。」
「…。」
「若の答えにも焦りが見える。
この老体を気遣ってくれるのはありがたいが…そのように簡単に答えるものではない。
妻子でなくとも、父や兄、喜三太でも良い。
その者たちを見捨てる…そう考えるとどうじゃ?
先と同じ答えができるか?」
「…。」
「…そうじゃ。…そう簡単に『捨てる』とは言えぬ。それが人の理(ことわり)よ。
だからこそ、大名たちは他の家から質を取るのじゃ。
何も悩まんのであれば、わざわざ差し出せと言わぬ。」
金吾の一文字に結んだ口元をみて、大叔父はなぜか安心したように目をつぶる。
答えより、人として当たり前の反応が、欲しかったのかもしれない。
「どの選択をすれば正解か、というものはない。
結果として良いか悪いかが出るだけじゃ。
…もし結果として、国や一族郎党を取ったとしても、
そこに至るまで、熟慮することを重視せよ。
何が最善か、他の立場や視点で見ればどうか。
見方を変え、やり方を変え、
考えに考え抜いて、打てる手段はすべて打ったうえで決めよ。
その上で出した答えなら、少なくとも間違ってはおらぬ。
一番の間違いは、目先のことだけで簡単に答えを出すことじゃ。」
シン…と静まった居間に、遠くから潮の音が流れてくる。
穏やかな流れの中から、しわがれた優しい声が続く。
「若、これは宿題としよう。
答えが出るまでじっくり考えておれ。焦ることはない。
一生かけて悩みなされ。
儂はあの世で、よい答えが聞けるのを楽しみに待っておる。」
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