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2025/01/09

紅葉の宿【その14】

内容はひたすら妄想ですが、兵太夫の過去捏造・実家設定捏造などがあります。
特に回想部分は、子供の虐待に近い表現があり、人によっては気分を害するかもしれません。
そのそれに対する登場人物たちのアドバイスがありますが、あくまで素人の小説なので、肯定しないでください。

中二病的発言は、華麗にスルーしてください。お願いです。
もちろんご本家様とは何ら関係ないばかりか縁もゆかりもございません。そして時代考証など完全に無視しております。訴えないで☆》

=============================================



「大殿様…あれでよろしかったので?」


兵太夫が帰った日、萩乃は最後のあいさつを述べにきていた。
くぼんだ目が萩乃に向けられる。


「あれ以上何か言えば、判断も鈍るだろう…お互いにな。
 
 あれには、うっかり武家に生まれたために面倒をかけた。
 武将は武から離れて生きることなどできん。
 仮に武を厭って暮らしたとしても、どこか魚の小骨のように引っかかって取れないものだ。
 そこで迷わせてはならん。

 …あれには何よりも大切なものを渡した。
 もし道に迷った時でも、自棄にならんよう、心の支えになるだろう。」


話すたびに、ぜろぜろと喉の奥がなり
ひゅーひゅーと音がする。


「儂にはもう、あれの力になることは出来ぬ。
 この城、この国の主であるために、父らしいこともできなかった。
 儂が死んだら、あれは我が家との関わりはなくなるだろう。
 それでも生きれるよう…一人にならぬよう…。頼む。」


「ご心配なさいますな。
 兵太夫様はもう一人前です、どこへでも行きたいところへ行き、どこでも生きられるでしょう。
 萩乃はしばらく…兵太夫様の帰る場所をお守りするのみでございます。

 兵太夫様が、一緒に歩んでくれる方たちとともに出立するまで…留守番をいたします。」


萩乃は、満月のような丸い顔で微笑んだ。
その満月には、ふと寂しさを感じるような、穏やかな光がにじんでいた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(6年前に、私は容赦なく手打ちにされましたな…。)


――6年前、

萩乃が兵太夫を忍術学園に入学させることに反対し、
父親である大殿相手に、手打ち覚悟と啖呵を切った時のこと、


バスッ


「っつ…!!」


首にしびれるような痛みが走った。
思わず手で押さえると、首はつながっている。

はっと目をあげると、
目の前の大男の手には真っ二つに折れた扇が握られている。


「痛かろう。これでお前の首は落ちた。死んだも同然じゃ。
 しかし、お前の主人と共にあの世へ行くことは許さぬ。
 その魂は、いったん首を切った儂が預かる。儂が良いというまで成仏はならぬ。

 お主は、これからは兵太夫に仕えよ。
 手始めに、あれの魂が、この世に心残りさせるようなものは取り除いておけ。
 …これは並大抵のことではないぞ。あの世も地獄も恋しくなるかもしれん。
 だが、儂は許さぬ。

 …すでに一度死んだ身じゃ。何事にも耐えねばならん。」


痛む首元を押さえながら、一つ一つの言葉を反芻していると、
落ち着いた思考が戻ってきた。


(…そうだ…御方様が一番気にかけておられることは、後に残される兵太夫様のお立場だ…。
 母がおられる今でさえ、微妙なお立場なのに…。)


痛みで頭が冷やされ、昇りすぎていた血が引いていく。


「分家させて領地を与えることもできぬわけではない。
 しかし、家督は継がぬと決まっていても、石高をやったらどうなる?
 兵太夫にその気はなくとも、担ぎ上げて家を分断させるような輩が出ないとも限るまい。
 ましてや、あの子の分別が付くまで、儂も生きているとは言えん。

 …兄の太郎は儂に似ている。
 国や城を守るためなら、何を犠牲にしてでもやるべきことはやる。
 家臣と領地を守るものは、どこまでも非情にならねばならん。

 武家に生きるというのは、そういうことじゃ。
 生きることも…死ぬことさえも自分ではままならなくなる。」


「…。」


「それに、これからは武力の時代ではない。
 商人や交易の時代がくる。
 幸い兵太夫は武以外の才能にも恵まれたようだ。
 むざむざ過去のものになりつつある武家の意地のために…
 生かせる者の命を縮めることはあるまい。」


――――。

(私は、目の前のことに躍起になりすぎていたんでしょうな…。
 今思えば、あの時の判断は正しかったのかもしれない…。)

しかし、まだ自分には守るべきものがある。
それを果たすまでは…。

(まだまだおそばには行けませぬな、御方様…。)


西の夕日が弱まるのと引き換えに、
東から昇り始めた月が、光り始めていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

――――。



1人きりになった病室で、父は思い出していた。
日はもうすでに沈み、雪国特有の静かな闇が部屋に満ちてきている。


――7年前の冬の日、

目の前には自分の愛妾がいる。
人払いをした部屋は、ただ病人の呼吸音だけが響いている。

(もう長くはない…。)

いよいよ病状は悪化しているようで、頬はこけ、目の下には隈ができている。


「なぜ今まで黙っておった。」


戦続きの自分に余計な気を遣わせたくないと、知らせなかったのだろう。
とはいえ、どうしてこうなるまで自分も気づかなかったのであろうか…。

しかし、目の前の佳人はその問いには答えない。お願いがございます…。と消え入るような声で答える。

もう話を聞く余裕も、ないのかもしれない。


「…兵太夫を、外で養育なさってください。」


「他家にやれというのか?」


驚いて返す。
確かに、母がなくなれば今よりも立場は悪くなる。
しかし他家に養子にやるとしても、後ろ盾のない立場ではすぐに見捨てられ、殺されてしまう。
なぜ余所にやるのか?その意図が分からなかった。


「いいえ、武家以外で知識を学べるところでの養育をお願いしたいのです。
 あの子には武芸より知識を付けさえてください。

 …確かに、あの子は武家の子です。
 しかし、これからは武の力の時代ではなくなると思います。
 人々は大平の世を望んでいますから…もう戦乱の世は終わると思っております。

 私は…あの子に少しでも長く生きてほしい。
 それには、平和な世を生きる知恵が必要かと…。

 だから、外で養育をと…。」


「何を言う。外に出さずとも、儂が立派に育てあげ…」


そう言いかけてふと言葉に詰まった。


――自分はいつまで生きられるのだろうか…?


何歳までお前は生きるのだ?と問われて正確に答えられる人間などいるはずはない。
しかし、兵太夫が成人するまで、高齢の自分が元気で生きている未来だけは見えなかった。


――父として見てやる時間は、自分にはないのだ。


「しかし、兵太夫本人は…どう思うであろう…。
 今でさえ、周りを憚ってあまり可愛がれておらぬのに…。

 …子を手放した父として、あの子に儂を恨ませる気か…。」

「他の3人の皆様も、恨まれる覚悟でお育てしたのでしょう…?」


上の兄3人が育つ頃には、まだ自分には時間があった。

戦場で無念のうちに死なぬよう、
駆け引きに飲まれて食われぬよう、
武芸も学問も、それは厳しく叩き込んだ。

もちろんそれぞれの息子たちに反発もされた。

長男はしばらく口をきいてくれなかった時期があった。
次男は武芸の練習は嫌だと、部屋の柱にしがみついて泣きじゃくり部屋から出ようとしなかった。
三男に至っては「父上なんか嫌いだー!」と叫んで脱走。城の外まで逃げ出したこともあり、一番手を焼い

た。

全身でぶつかりながらも、自らの手で息子たちを育てていた日々は、今思い返せば懐かしい。


しかし、そんな日々は兵太夫にはやってこない。


「分かった…妥当なところを探してみよう…。」

「…ありがとうございます…。」


そういって安心したかのように、愛妾は胸の前で手を合わせ目を閉じた。
このまま死んでしまうのではないかと、ひやりとしたが、
静かに聞こえてきた読経に、一瞬だけでも心が落ち着いた。


――自分はこの女性に何をしてやれただろうか――

白い顔を見ながら、そんな考えに耽っていた。


――――。


6年ぶりに会った末の息子

すらりと背が伸び、色白の瓜実顔に涼やかな目元が思い出される。


―――儂には似とらんの…。


6年前に別れた時の、幼い顔に表情のない目。
愛妾の最後の姿と共に、今までずっと心に残っていた。
それが、先ほどまでここにいた。


―――これから、どんな人間になるのだろうか?


それを見ることは叶わない。


その年の暮れ。
吹雪の日に父は身罷った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


今年も山々が色づく季節が巡ってきた。
苛立たせるような、むせかえる暑さはすっかり過ぎ、済んだ空気と高い空が頭上に広がっている。

紅く色づいた葉を、いくつもくぐっていくと、
大きな紅葉の木と質素な家が見える。
6年間、何も変わらない。


来客に気づいた老女が、
満月のような顔に笑みを浮かべて小走りに駆け寄ってくる。


兵太夫は今年も帰ってきた。


紅葉の宿へ


*END*

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2015/12/13 ♪忍たま小説♪ Comment(0)

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